味の素グループが進めるバックオフィス改革 「外の目」活用でDX推進

味の素グループが進めるバックオフィス改革 「外の目」活用でDX推進

世界135の国と地域で製品を販売している味の素グループは、アクセンチュア社との共同出資で設立した子会社・味の素デジタルビジネスパートナー株式会社(ADP社)を中心に、2020年からバックオフィス業務の効率化を進めています。デジタルツールの活用で取り組む、リーディングカンパニーの業務効率化について、味の素の香田隆之・執行役常務CXO(Chief Transformation Officer)が語りました。

顧客価値向上につながる効率化を

限られた人的リソースでお客様に提供できる価値の向上を目指す――。そう模索する中で、味の素グループがたどり着いた一つの結論が、ADP社の設立でした。

バックオフィス業務のような労働集約的な仕事の効率化で、人的リソースの余裕を生み出し、営業やマーケティングなど戦略的な仕事を担う人財を確保することが最大の狙いです。

ADP社が業務効率化に活用したツールの一つがRPAで、就労管理業務が代表例です。従来は各部署が、実績データの照合および督促といった作業を、それぞれの方法で行っていました。人事部門にてワークフローを再構築後、ADPに就労管理業務が集約された現在は、RPAの活用によって自動処理され、労働生産性が飛躍的に高まっています。

ADP社による業務効率化を語るうえで、もう一つ重要なのは、バックオフィス業務を専門とするアクセンチュア社の「BPSセンター」という機能の活用です。例えば、給与計算、社会保険、福利厚生といった人事労務管理業務は、ADP社がとりまとめて業務を標準化した後、BPSセンターにアウトソーシングしています。

人事労務管理業務は、以前より子会社に集約していましたが、ADP社が引き継ぎ、アクセンチュア社のRPAやBPSセンターなどのノウハウを組み合わせることで業務効率化のレベルが一段上がりました。

業務効率化といえば、シンプルな「断捨離」の視点で語られることが少なくありませんが、ADP社はアクセンチュアとのパートナーシップによって、改革をより高い次元に引き上げています。

バックオフィス業務のDX推進のため、アクセンチュアとの共同出資で設立した子会社・味の素デジタルビジネスパートナー株式会社(ADP社)(写真はすべて同社提供)

バックオフィス業務のDX推進のため、アクセンチュアとの共同出資で設立した子会社・味の素デジタルビジネスパートナー株式会社(ADP社)(写真はすべて同社提供)

利害調整が円滑に

アクセンチュア社は業務効率化のノウハウ提供だけでなく、改革の推進体制にもメリットをもたらしています。味の素グループ以外の目が入ることで、利害調整が円滑になったのです。

例えば、組織横断的にワークフローを統一する「標準化」を進めるには、組織間の利害調整が重要です。

標準化は、バックオフィス業務を子会社に集約する前段階として必要不可欠なプロセスですが、「うちの部署に他が合わせてくれるなら、改革に協力してもいい」という主張が横行し、改革が行き詰まるボトルネックでもあります。

そのため、標準化を進めるには、関係部署の利害が一致するような新しいワークフローの提案と合意形成に向けた粘り強い交渉が重要とされています。

その領域は、まさにアクセンチュア社が得意とするところになります。「外の目」によるコンサルティング機能の提供にとどまらず、「第三者」の立場から各当事者の利害を調整し合意形成まで伴走するという二重の意味で、アクセンチュア社は頼りになる改革のパートナーです。

生まれた人的リソースを配置転換

そもそも、ADP社を設立したのは「人的リソースが限られるなかで顧客価値の向上をいかに実現するか」という非常に戦略的なトピックを実現するためです。

社内でも勘違いされがちですが、効率化すること自体が本質ではありません。効率化の先にある、顧客価値の向上を実現するまでが重要なのです。

そして、この改革では、効率化で生まれた人的リソースを、営業やマーケティングなど売り上げにつながる部署に配置転換する施策を進めています。バックオフィスからフロントオフィスへの異動によって、顧客価値の向上を模索しているというわけです。

配置転換にあたっては、本人や現場に任せ切りにしないよう、能力研鑽につながる教育プログラムをいくつか提供しています。例えば、「DX人材育成プログラム」では、顧客価値の創造や向上に際して、ますます必要となるデジタル活用の知識習得と活用方法の理解を図り、活躍の場を広げる施策を展開しています。

業務効率化とDX人材育成を同時並行で進めています

業務効率化とDX人材育成を同時並行で進めています

見えてきた成果と課題

この改革は、2020~22年の3年間を一つの区切りとしてきました。21年が終わりに近づき、2年が経とうとしている今、バックオフィス業務の集約はまだ途上という認識です。

例えば、味の素グループ各社の社員がADP社に出向しているケースが数多く、各社のバックオフィス業務をする場所が変わっただけ、という面があります。コスト削減効果など、財務諸表に現れる成果を得られる段階には至っていません。

一方、バックオフィス業務の集約に着手したことで、改革の手がかりをつかめたという自負があります。「やってみないとわからない」とされてきたことに、道筋がついたというわけです。

「業務内容をデータ解析したのち、プロセスを組み替えて、RPAやBPSセンターを活用して効率化する」といった高度な効率化の施策は、ADP社の改革が切り開いてきた領域です。

いわば、改革の地ならしが2年間の成果だったと捉えています。今後は、今まで実践してきた内容を横展開することで、着実に改革を推進できる見通しが立ちました。

また、改革の進展に伴い、事前の想定とは異なるポイントも明らかになってきました。その一つが、人財の異動の可能性を伴う改革の難しさです。

将来的に業務の集約・効率化が進むと、新規ニーズを含めた業務量と在籍する人財の数とのアンバランスが、勤務地ごとに顕在化する可能性があります。この点が心理的ハードルとなり、その起点である改革に対して、前向きになれないことが起こり得ます。

引っ越しは当人だけでなく、家族を巻き込むこともあり、なかなか簡単には進まない問題です。この課題に対して我々は、リモートのやりとりで業務の集約が完結するようなプロセスの構築を模索しているところです。

社内認識の統一が必要な段階に

改革の道筋がついた、という自負がある一方、今後は改革をペースダウンさせる必要が明らかになったと感じています。

味の素グループは改革の意義をさらに浸透させようとしています

味の素グループは改革の意義をさらに浸透させようとしています

改革の意義について、社内の認識の統一を図る必要が生じており、コミュニケーションに時間がかかると見込んでいます。当初3年間を予定していたスケジュールを、最終的に4〜5年の間に収めることを考えています。

ADP社の設立で、「効率化で生じた人的リソースを、顧客価値の向上に割り当てることで有効活用を図る」という認識を、社内に浸透させてきました。しかし、時間が経つにつれてメッセージの印象が薄れてしまったようです。

最近では、バックオフィスの業務をADP社に集約する動きに、「人減らしだ」と反発する声も耳にするようになりました。改革の意義について一人ひとりとコンセンサスを深めるプロセスに、時間をかける必要が生じてきました。

業務効率化は、味の素グループの共通の価値観である「従業員と会社の共成長」によって達成することが大前提です。スケジュールという表面的な事柄にこだわって、強引に事を進めてしまえば組織が壊れてしまいます。

人的リソースの有効活用による顧客価値の向上を実現するため、全員が納得できる形での改革を進めています。

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