「ミライのカスミガセキ」を立ち上げた、厚生労働省職員の堀俊太郎さん

霞が関のバックオフィス業務は変えられるか 声をあげた若手官僚に聞く

働き方改革は、民間企業だけではなく中央省庁でも喫緊の課題です。霞が関では2020年、若手官僚が有志で「ミライのカスミガセキ」というグループを立ち上げ、不要な仕事の廃止といった改善提案を大臣に直接伝えるなど、精力的に活動しています。グループの呼びかけ人で、厚生労働省職員の堀俊太郎さん(26)に、話を伺いました。
※記事中の発言は個人的な意見であり、所属組織を代表するものではありません。

【ミライのカスミガセキ】
若手官僚有志のグループで、2020年10月から活動を始めた。メンバーは厚生労働省や文部科学省などに所属する、入省3~4年目の約10人。労働環境の改善や時代に合った組織作りを目指し、現場の意見を吸い上げながら、外部との勉強会などを開いている。note(https://note.com/miraigaseki/)ツイッター(@miraigaseki)でも活動を発信している。

同期や先輩が志半ばで離職

河野太郎・行政改革担当相(当時)に提言を届けた「ミライのカスミガセキ」のメンバー=2020年11月、同グループ提供

河野太郎・行政改革担当相(当時)に提言を届けた「ミライのカスミガセキ」のメンバー=2020年11月、同グループ提供

——グループを立ち上げた経緯を教えてください。

堀氏:社会を良くしたいと働いていた私の同期や先輩が、志半ばで離職したり休職したりする事例を見てきたのが、きっかけです。若手の霞が関職員は、資料を整えたり印刷したものをホチキスでとめたりという形式的な業務が多く、やりがいを見いだしづらいという問題意識がありました。

そんな中、2020年9月に行政改革担当相に就任した河野太郎氏が、会見で霞が関の長時間労働について懸念を表明し、社会的にも注目が高まりました。

厚労省のOBなどが河野氏に提言を持っていく動きが出てきたのですが、やはり当事者である若手の霞が関職員が、大臣に現状や我々なりの考えを伝える機会があったほうがいいと考えました。私が声をかけて人づてにメンバーを集め、20年10月に本格的に活動を始めました。

バックオフィス業務が半分以上に

——どのような活動をしているのでしょうか。

堀氏:通常の業務とは別に、メンバーで働き方の現状を調べて、問題点や改善点を話し合っています。また1月には、理想のキャリアについて話し合うオンラインイベントを開催し、約60人の若手職員が参加しました。

試行的なものですが、入省1~3年目の霞が関職員を対象にアンケートも実施しました。1週間に占める業務割合をたずねる質問(回答数13人)では、政策立案などとは直接つながらないバックオフィス業務が、1週間のうち約6割を占めました。私個人の体感も同じようなイメージです。

——バックオフィス業務の中身には、どのようなものがあるのでしょうか。

堀氏:大半を占めるのが、総括業務と呼ばれる調整作業です。たとえば、他省庁や議員から発注があったとき、総務にあたる課室や係が案件の窓口になります。

そして、仕事をそれぞれの担当課、担当係に割り振り、工程を管理する作業が生じます。霞が関の仕事は一つの部門や課におさまらないことが多いため、若手が各課の調整作業の窓口役として対応しています。

次に多いのが、庶務業務です。民間企業の庶務に近く、経費精算などのほか、閣議や審議会のための資料の印刷・ホチキスどめといった単純作業も多く含まれます。

形式的なルールはなくせる

——バックオフィス業務のうち、どんな部分が効率化できそうですか。

堀氏:国民生活に関わらない形式的なルールはなくしていけると思います。たとえば以前は、閣議にあげる決裁用資料の文字を、「青枠」とよばれる表紙の枠内におさめる決まりがありました。

資料の紙を一枚一枚表紙の枠に重ねて光にすかして、枠からはみ出ていないか、1ミリ2ミリの単位で確認する必要があったんです。私も入省直後に作業を経験して、大きなカルチャーショックを受けました。

また、文書を製本するときに、ホチキスでとめるのではなく、キリで紙に穴をあけ、こよりでとじるという慣習もありました。青枠とこよりとじのルールは、いずれも作業の負担が大きいということで、20年秋にトップダウンで廃止されました。

省庁で白書を策定する際、各課が書いてきた文書を統合する作業も、結構な負担となっています。フォントがばらばらだったり、文書の形式が違ったりするものを整える必要があるのも作業を煩雑にする一因です。これも、クラウドサービスの同時編集機能が使えたら、だいぶ効率化ができると思います。

改善策を大臣に直接提言

——これまでの活動は、どのようなアウトプットにつながったのでしょうか。

現場で見えてきた課題をどうやったら解決できるか、具体的な提言にまとめ、20年11月と21年5月の2度、当時行政改革担当相だった河野氏に直接届けました。

最初の提言では、必要性の高さに応じて業務を分類し、一部を廃止したり、省力化したりする案をまとめました。具体策としては、国会答弁で使う手持ち資料のペーパーレス化、課題が重複する会議の見直し、資料のクラウド化による発注作業の効率化などを盛り込みました。

2回目の提言では、長時間労働の原因と若手職員が感じている業務を調べたうえで、負担の大きい法改正の資料作りについて、見直しを求めるなどしました。

2020年11月、河野太郎行政改革担当相(当時)に届けた5つの提言

2020年11月、河野太郎行政改革担当相(当時)に届けた5つの提言

誰が定めたかわからないルールも

——中央官庁は民間企業に比べて、効率化を進めるのが難しいイメージがあります。

堀氏:霞が関の歴史が長すぎて、どんな経緯と意図でルールが定められたのかあいまいになっている面があると思います。前述した閣議の文書のルールのように、そもそも誰が定めているのかわからないものもあります。

また、すべての中央官庁が従っているルールを見直すのは、関係者が多くて調整が難しいというのもあります。こうした、古くから根付いていて省庁横断的なルールは、現場が問題意識を持っていてもボトムアップで変えるのは難しい。青枠とこよりとじのルールは大臣によって迅速に見直されたので、そうしたトップダウンのアプローチも重要だと思いました。

——予算の問題もあると聞きます。

堀氏:国の財政が厳しい中、業務効率化のための環境をお金をかけて整備していくのが難しい、という側面はあります。予算を要求するにしても、社会課題のためにやっている他の事業との兼ね合いを考えなければいけません。

ただ、業務が効率化すれば、職員の残業が減って人件費の抑制につながることもあります。そうした認識は広まっているので、業務効率化に向けた環境整備は、今後進むと思います。

働き方への問題意識が広まる

——堀さんが入省してから4年弱で、霞が関の意識はどのくらい変わってきていますか。

堀氏:まだまだ努力は必要ですが、入省時から比べるとだいぶ変わりました。私が自分の職場の業務効率化について上司に提案するということも、受け入れられやすくなっています。

そもそも、働き方の問題で離職者が増え、霞が関の職員のなり手が減っている現状があります。勤務環境を改善していかないと、個々の職員の満足度という次元ではなく、霞が関の組織運営に差し支えるという問題意識が、かなり広く共有されてきていると思います。

国家公務員の採用試験で、総合職の申込者数は4年連続で減少している(朝日新聞から引用)。また内閣人事局が2020年秋時点の官僚約5万人の働き方を調べたところ、20代のキャリア官僚の32%が、「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をしていることが判明した。

国家公務員の採用試験で、総合職の申込者数は4年連続で減少している(朝日新聞から引用)。また内閣人事局が2020年秋時点の官僚約5万人の働き方を調べたところ、20代のキャリア官僚の32%が、「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をしていることが判明した。

国会議員や社会のみなさんに、国家公務員の働き方への問題意識が広まっていることも大きいです。働き方の問題を是正すべきだという社会の声が高まるほど、各省庁に対して改善を働きかけるトリガーになるというのは感じます。

社会課題への迅速な対応を目指して

——業務の効率化によって、目指す官僚像はどんなものでしょうか。

堀氏:二つあります。一つは、バックオフィス業務の効率化で意思決定や、社会へのレスポンスのスピードをあげて、中央省庁が提供できる価値を高めることで、国民のみなさんの利便性を上げていくということです。

もう一つは、バックオフィス業務の効率化で確保できたリソースが、社会課題の解決に使えるということです。より質の高い政策立案に取り組んだり、実際の政策に近い現場や民間企業のみなさんに、話をうかがう機会を増やしたりといったこともできます。

我々のリソースを、より価値が創造できる方向に使うことで、困難な社会課題に、迅速に対応できる中央省庁にできればと思います。

——若手が声をあげて周りを巻き込んでいくのは、どの組織でも大変だと思います。取り組みを続けるにはどんなことが大事でしょうか。

堀氏:問題意識を持っている人たちが集まって、自分たちの悩みや解決策をシェアする場を作ることだと思います。1人だけだと孤立してしまうし、最初の一歩を踏み出すのが難しい。自分だけで改善策を考えようとするより、同じ問題意識を持つ仲間と連携しながら、ほかの省庁のやり方も共有しつつ進めるほうが、職場での説明のしやすさも変わってきます。

意思決定をするトップへの提案も必要ですが、実際に問題意識を持つ人同士で、一緒に考える機会を作ることが大切ではないでしょうか。

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