マツキヨココカラ役員の異色のキャリアに学ぶ 「10年後に生き残る経理パーソン」のヒントとは

マツキヨココカラ役員の異色のキャリアに学ぶ 「10年後に生き残る経理パーソン」のヒントとは

営業畑を14年歩んでから経理へ――。マツキヨココカラ&カンパニーで財務戦略室長を務める西田浩・執行役員は、経理パーソンとして異色のキャリアを歩んできました。回り道にも見える経験が、転職時の強みや、「強い経理部」を作りあげる現在のスキルにつながっているといいます。「10年後に生き残る経理パーソン」とはどのようなものか。インタビューからヒントをさぐりました。

西田浩(にしだ・ひろし)さん

【プロフィール】

西田浩(にしだ・ひろし)さん

1988年、エバラ食品工業株式会社入社。
営業部門で14年間の現場勤務の後、税理士試験合格により経理部へ異動し、2003年経理課長。
2006年、荏原食品(上海)有限公司へ出向し董事・副総経理として中国事業の立ち上げ、事業推進を行う。
帰国後、経営企画課長、CSR課長を歴任し、2011年、経理部長に就任。同社の東証一部指定の際の中心メンバーを務める。
2017年、同社を退職し、株式会社マツモトキヨシホールディングス財務経理部長に就任。
2021年、同社執行役員 管理本部 財務経理部長。同年株式会社ココカラファインとの経営統合により、マツキヨココカラ&カンパニー 執行役員 グループ管理統括 財務戦略室長に就任。現在に至る。
慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了、修士(経営学)。

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「敷居が高く接点がなかった」経理部門

——大学卒業後のキャリアを教えてください。

衣食住のなかで、食は非常に安定性があると思い、食品業界を志望していました。縁あって食品メーカーに営業として採用されました。

——どんな仕事内容だったのでしょうか。

大きく分けて2つの営業を担当しました。1つはスーパーなどに向けた、家庭用の商品の営業です。定番商品を置いてもらったり、チラシに採用していただいたりですね。もう一つは、レストランや給食を中心に、大きいサイズの調味料を販売する業務用の営業です。新卒で入社してから14年ほど、営業畑でやってきました。

——営業担当からみた経理部はどんなイメージでしたか。

当時の営業にとっては、経費精算のときに行くような部署。どちらかというと敷居が高くて、接点がないイメージでした。

——そこからどんなきっかけで経理担当に転身されたのでしょうか。

営業を担当しているころに、大手の金融機関の経営破綻があったり、世の中が非常に不透明な時代になっていました。私自身も将来に対する漠然とした不安があり、万が一のとき路頭に迷わないよう、何か資格を取得しようと考えました。色々と調べた結果、税理士の資格を取得しようと考えました。勉強を始めたのが29歳のころ。仕事は通常通りに続けながら、平日の夜と土日を使って、専門学校にも通い勉強を続けました。ちょっと時間はかかりましたが、35歳で試験に合格できて、それを会社に報告しました。すると、会社から経理部への異動を言い渡されました。

——長く営業にいた人が経理に行くという前例はあったのでしょうか。

なかったですね。経理はほとんどの人が生え抜きだったので、私のようなタイプは相当珍しかったようです。私自身は、勉強してきたことを実務でいかしていこう、がんばろうという強い気持ちになっていました。

営業にいたからこそできた改善

——営業経験者の視点で経理の仕事をやってみて、気づいたことは。

数字の意味が非常によくわかりました。この商品群が売れると利益が出るといったことは営業時代に感覚的に身についていたので、やっぱりその通りになっているのだなと。また、社内の経理部門が営業に提供しているデータの中には、現場でほとんど活用していないものもありました。営業現場でどんなデータが欲しいのかといったところは骨身にしみていたので、そうしたデータ提供の改善には役立てたと思います。

——どんな改善がありましたか。

支店ごと、営業所ごとの損益のデータはもともとあったのですが、その中身をもう少し分析して渡すようにしました。たとえば、この支店は全国平均よりもこの商品群の販売が少ないので、仮にこれを全国平均並に引き上げると、損益がこんな風に改善しますといった具合ですね。また、取引先のスーパーが上場していれば有価証券報告書を分析して、相手の販売方針にマッチするような商品を提案すると採用されやすい、といったことも説明しました。

現場を知るため研究所も視察

——当時、経理担当をしながら心がけていたことはありますか。

現場でなにが起きているかをよく知らないといけない、ということですね。たとえば、工場で仕事をした経験がないと原価がよくわからない。帳簿だけ見ていても、感覚的にはわからないところがあるのです。そこで、実際に工場に足を運んで、製造ラインを見せてもらいました。小ロットの商品を生産するために、別の商品のラインを1回止めて洗浄しなければいけないとわかると、バランスのよい生産計画が非常に重要だといったことが実感できます。

あとは、商品開発に必要な研究開発費もかなりの額になりますので、研究所にも足を運びました。研究員の人たちがどんな研究をしていて、どんな設備があるのかを見たりして、知識を深めていきました。

——西田さんが経理に行かれてから、経理の役目や雰囲気に変化などはありましたか。

営業部門の所長や課長が、私によく質問をしてくるようになりました。今までだと経理に聞きにくいみたいなところがあったようですが、「営業にいたから営業のことをよくわかっているだろう」みたいな感じで、所長や課長からしたら相談しやすくなったということはあったみたいですね。たとえば営業所から「うちは他と比べて営業利益率が低いけど、何が悪いんだ」といった相談がくることが多かったです。そうした質問に対して、丁寧に説明することを心がけました。売上構成比や販管費率をみながら、アドバイスをしていきました。

50歳でマツキヨへ転職

——その後、中国に赴任して現地法人立ち上げに関わり、帰国後は経営企画へ。そして2017年には、マツモトキヨシホールディングス(HD)に転職されました。これはどんなきっかけがあったのでしょうか。

最初に入った食品メーカーで長いことお世話になり、ちょうど50歳になりました。そこから定年までの10年ぐらい第一線にいると考えたとき、「このままひとつの会社しか経験していなくていいのかな?」という気持ちは漠然とありました。自分の経験が違う会社でも役立つのかという関心もあり、考えた末に転職を決めました。

マツモトキヨシ芦花公園駅前店(マツキヨココカラ&カンパニー提供)

——転職の際、ご自身の強みはどんなところにあると分析されたのでしょうか。

最後は6年ほど経理部長もやっていたので、マネジメントというのはもちろんありました。あとはやはり、部門の改革はやれたかなと思っていました。単に決算を締めて数字を渡して終わりという部門ではなく、細かく分析して経営の役に立つ情報を提案できる仕事を心がけていたので、そうした点で他の会社でもお役に立てるかなというのはありました。経理部門長の採用をしていたマツモトキヨシHD(当時)に応募し、縁あって採用されました。

担当部長を質問攻めに

——マツモトキヨシHDに来てから、仕事のスタンスは変わりましたか。

基本的に変わっていません。私が転職当初から、部内にも経営層にも言っているのは「強い財務経理部を目指す」ということです。要するに、しっかりと経営の役に立ち、周りから頼られ信頼されるような、そういう財務経理部門を目指すということです。

——現場の情報収集も続けられているのでしょうか。

そうですね。私は実際に店舗勤務の経験がありませんので、営業部長や、調剤薬局をたばねる部門の部長に定例会議後の時間を貰って、「さっき言われたこれはどういうことなのですか」などとわからないことについて質問攻めにしました。転職後一年はそうやって理解を深めていきました。みなさん本当に親切に教えてくれましたね。

——マツモトキヨシHDの経理部ではどんな部分を改善しましたか。

大きなものとしては、新鮮な情報提供ができるよう月次決算の早期化をしました。経営層だけでなく各部門も、先月の業績が、利益面でどんな理由でどのような結果になったのか、ということは早く知りたいですよね。部下の人たちもよく理解をしてくれて、各部門や取引先にも請求書やデータを早く出してもらえるようお願いしました。営業利益や費用が、想定とどうずれているのかが早くわかるようになると、原因分析やその後の対策も早く実行することができるようになります。

10年後に求められる経理とは

——10年後の経理部門では、どんな役割が求められるでしょうか。

正しい決算を迅速に締める、作る、それを説明するという基本は変わらないと思います。今まではここで大半が完結していましたが、今後はさらに集めたデータを活用して、いかに経営課題の解決につなげられるかが重要になっていきます。役割として経営支援にさらに寄っていく、それは間違いないでしょう。

ココカラファイン掛川弥生店(マツキヨココカラ&カンパニー提供)

さらにデジタル化がすすめば、決算の数字を作るという部分の仕事は自動化されてどんどん縮小していくと思います。経理パーソンはそこで上がってきた数字を分析して、それは自社の戦略とあっているか、何か異常がないかといったことをいち早くキャッチして経営層に報告する役割を高めていかないといけない。AIが分析して仮説を提示するようになっても、それを採用するか最終的に判断するのは人間の力です。

——そうした経理パーソンになるためにはどんなことが必要でしょうか。

会社のコア事業を実際に経験するのにこしたことはないのですが、それができなくても、理解をするということがものすごく大事ですね。どういう取引関係があってどういうふうに収益があがっているかっていう流れを、全てきっちり理解している人って、経理パーソンでも意外と少ないと思うのです。会社のことをよく知るためには、私がやったように、その部門の方とよく話をするとか、色々現場を見に行って理解をしていくというのが一つの方法です。

あとは、自分の会社だけでなく業界のなかでのポジショニングまでちゃんと理解しないといけない。経営者はつねに、出てきた数字を他社と比較して見ているわけで。経理側もそれができていないと、経営側に対して提案なんてできません。経営者の視点を持って数字を見るという訓練は、経理にいながらでもできます。私も社内の経理担当者向けの勉強会で、同業他社との業績比較をやって、戦略面の違いを説明しています。

——資格や勉強法でおすすめはありますか。

年代にもよりますが、MBA(経営学修士)を目指すのはいいと思います。私自身も先日、取得したのですが、経営の視点を身につけるには、MBAの勉強をするのが一番良いと思いました。また勉強のためには、色々な団体が主催しているセミナーを活用するのも有効だと思います。ただ聞くだけでなく、しっかりと自分の言葉で説明出来るようにすることが重要ですね。

なにかあったら思い出してもらえる存在に

——西田さんにとっての理想の経理パーソンとはどんなものですか。

経営者や他部門の人がなにかあったときに、「ちょっと経理に聞こう」というふうに思い出して頼ってもらえることが理想ですね。そうでないとこちらにも情報が入らない。そのためにもできるだけ垣根を低くして、前向きに誇りを持って仕事をすることが大事です。

——最後に、若手の経理パーソンにメッセージをお願いします。

経理の仕事は、一生をかける価値のあるすばらしい仕事です。私自身も最初は営業で、色々な経験をしてきましたが、いまの仕事が天職だと思っています。専門性をいかして人の役に立てるというのは大きなモチベーションになりますし、その専門性はどんどん磨くことができる。幅広く関心を持って、アグレッシブに行動していただきたたいと思います。

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