全国の都市を「データ化」せよ 国交省の先端プロジェクトがもたらす「真の価値」とは

全国の都市を「データ化」せよ 国交省の先端プロジェクトがもたらす「真の価値」とは

サイバー空間に、現実の都市をそっくりそのまま再現する――。国土交通省が主導する3D都市モデルの整備「Project “PLATEAU”(プラトー)」が、全国で広がりを見せています。自治体が蓄積してきた「リッチなデータ」を活用するというプロジェクトは、どのような可能性を秘めているのでしょうか。プロジェクトチームの統括を務める内山裕弥さんに話を聞きました。

内山裕弥(うちやま・ゆうや)さん

【プロフィール】

内山裕弥(うちやま・ゆうや)さん

国土交通省都市局都市政策課 課長補佐
1989年東京都生まれ。首都大学東京、東京大学公共政策大学院で法哲学を学び、2013年に国土交通省へ入省。水管理・国土保全局、航空局、大臣秘書官補等を経て現職。

形だけの再現ではない3D都市モデル

——「プラト-」は、現実にある地図や建物のデータを使って、仮想空間上に3Dの都市モデルを作る事業とうかがっています。大きな狙いを教えてください。

サイバー空間上に現実空間の都市とそっくりそのまま同じものを作って、その上でいろいろなシミュレーションをしたり、サービスを開発したりすることで、今までできなかったことをやっていこうというのが目的です。

大きくわけて、やっていることは三つです。まず、3Dの都市モデルを作ってそのデータをオープン化し、誰でも使えるようにすること。二つ目はユースケース開発。このデータを使ったソリューション開発を進めること。三つ目がムーブメント。国交省が作って国交省が使うだけでは広がらないので、自治体や企業などいろんなプレーヤーに参加をうながし、サービス開発にとりくんでもらって、新しい価値を作り出してもらう。これを通して、いまのニーズや課題にすばやく対応できるようなまちづくりをできるようにしていきたいと思っています。

——プラトーのウェブサイトでは、3D都市モデルの概要を誰でも見ることができます。3Dで再現された東京の町並みをぐるぐるとまわしてさまざまな角度から見たり、建物の高さや用途ごとに色分け表示ができるようになっています。一見すると、一般的な地図アプリの3Dモデルにも似たイメージですが、どのような違いがあるのでしょうか?

まず地図アプリは地図を用いたサービスを提供する取り組みですが、我々は地図のデータそのものを提供するサービスで、目指しているところが大きく違うというのがあります。

また、データの中身が全然ちがうということもあります。地図アプリなどで見る3Dマップのモデルはジオメトリーモデルといって、いわば形だけで三次元の形状を再現したものです。一方でプラトーのデータは構造化データといって、ビルの形をした立方体一つ一つにも意味が入っている。この立方体は建築物で、これは工場、これは商業施設、さらにその中にもこの部分が壁でここが床といった情報がそっくりそのままコードとして書いてあるんです。

人間の目から見たら、他の3Dマップとプラトーは同じに見えますが、コンピューターの目からみると、プラトーのデータを使うことで、ここは家でここは屋根といったことを認識できるようになる。人間が見て感じ取れる情報を、そっくりそのままデータ化してコンピューターにもわかるようにしたものが、プラトーの3D都市モデルということになります。

リッチなデータが活用されていなかった

——プラトーの3D都市モデルに使われているデータは、どこからどのように集めてきたものなのでしょうか?

データの提供主体は、全国の都道府県や市町村といった自治体です。元になっているデータは、都市計画基本図、航空測量、都市計画基礎調査という3点セット。いずれもプラトーのために作っているわけではなく、もともと自治体が定期的にやってきた調査や測量成果です。それを流用することでプラトーの3D都市モデルが作れるという整備スキームを作ったのが、我々の仕事ということになります。

用途ごとに色分けされた、新宿の3D都市モデル(プラトーの画面から)

一つ目の都市計画基本図というのは、自治体が自分たちで作っている地図。都市計画を考えるときなどに使うもので、定期的に更新されています。二つ目が航空測量。これは都市計画基本図やその他の自治体が利用する地図を作るために定期的に行われているものです。実は2Dの地図を作るためにも三次元の測量というのは必要で、航空測量も昔から続けられてきました。ここから三次元情報を引っ張ってくる。三つ目の都市計画基礎調査というのは、その名の通り都市計画を考えるため、街がどんな風に使われているかを把握する調査です。土地の用途や、建物の建築年数、鉄筋なのか木造なのかといった部分まで、けっこういろんな情報をとっているものです。

いずれのデータもかなりリッチで、かつコストをかけて集められているものです。でもこれまでは、限られた人しかその存在を知らず、十分に有効活用されているわけではなかった。プラトーではそれをひっぱり出してきて、3D都市モデルという新たな価値を与え、かつオープンに提供することで、今までのデータから新しいソリューションを産みだそう、ということをやっています。

——プロジェクトは2020年度に始まりました。経緯を教えてください。

3D都市モデル自体は日本オリジナルではなくて、EUやシンガポールなどで先行事例があり、我々も以前からリサーチはしていました。そんな中で2020年、新型コロナの感染拡大があり、政府の中でもあらゆる政策領域でもっとちゃんとDXを進めないといけない、という意識が広まってきた。じゃあまちづくりの分野でなにができるかと考え、これを機会に、3D都市モデルという技術を使ってDXを進めようという合意形成がされていきました。

——2020年12月にティザーサイトが公開され、3D都市モデルの公開が始まりました。どのように参加自治体が決まり、モデルが作られたのでしょうか?

参加自治体は基本的には公募です。3D都市モデルは、自治体のデータをもとに専門の業者に発注して作ってもらう。現在は効率化もすすみ、100キロ平方メートルほどの面積なら、最短3カ月ほどで完成します。すでにあるデータを使うので、費用もあまりかかりません。

再エネ普及や防災への可能性

——ティザーサイトの公開から約2年がたちましたが、どのような活用事例が出てきていますか?

たとえば、石川県加賀市がおこなった、太陽光発電のポテンシャルのシミュレーションがあります。太陽光パネルが設置可能な建物の屋根面積や傾きといった3D都市モデルのデータと、日射量のデータをあわせ、都市全体で年間何キロワットくらいの発電ポテンシャルがあるかを計算しました。シミュレーションによって、発電効率のよいエリアとそうでないエリア、またパネルの光が反射して周囲の建物に迷惑がかかるかどうか、といったことまで把握することができます。どこでどう太陽光パネルを普及させれば脱炭素にどのくらい貢献できるかといったことについて、今までは定性的なデータでざっくりとした計算しかできなかったのが、定量的で精緻な数字が出せるようになります。

これは建物の屋根を1枚単位でデータ化し、高さや方角、傾きといったデータが入っている3D都市モデルでなければできないことです。

石川県加賀市の3D都市モデルを使った太陽光発電のシミュレーション(国土交通省提供)

——防災面での活用もあると聞きました。

東京の虎ノ門ヒルズでは、災害時の避難シミュレーションを実施しました。より詳細な建物内のデータと、プラトーのデータを統合して、地震や火事で何千人規模の従業員が一斉に避難したときに、どこで人の流れが止まって何人くらい密集してしまうかといったことを計算することができます。もちろん避難計画も決まってはいますが、その妥当性をシミュレーションで検証できるようになりました。

水害対策での活用もあります。プラトーを使えば特定エリアが浸水した場合、その中にある建物の位置や壁の形状から、水の動きを解析して、水の勢いがどのくらい落ちて、どのくらいまで広がるかといったことがより精緻に計算できます。

愛知県岡崎市の3D都市モデルでおこなわれた、豪雨災害時の浸水シミュレーション(国土交通省提供)

データ活用のエコシステムを

——これまでに3D都市モデルを構築した市区町村はいくつぐらいあるのでしょうか。

2022年11月時点で、約60です。現在作成中のものもあり、2022年度末には140まで増える予定です。

全国へも広げていく方針のため、中長期では2027年までに500市町村という目標を掲げています。

——自治体はどのようなモチベーションで参加しているところが多いでしょうか?

やはり防災とまちづくりに活用したい、というところが圧倒的に多いです。特に防災は、ハザードマップを3D化して住民とシェアし、どこが危険かをワークショップで議論するような使い方もできます。防災への理解を深めるうえでも、わかりやすい経験を提供することができると思います。

——今後の展望を教えてください。

オープンデータ活用のエコシステムを作っていきたいと考えています。プロジェクトが始まったばかりなので、まだ国の役割というのはけっこう大きく、3D都市モデルの構築をしやすくするためのベストな仕組みを整えたり、技術開発を進めたりといったところは、国がどんどんやっていかないといけないところです。

そうした直轄事業を見て、「じゃあうちもやってみよう」という自治体が広がれば、データもどんどん増えてきます。どこの都市にも3Dモデルがあるのが当たり前というふうになれば、何か新しいことをやろうって人が出てきて、アイデアやイノベーションも起きやすくなります。そのなかから優れたものを国がひろって「自治体の課題をこんなふうに解決できますよ」と水平展開されて回転していくようなサイクルを作っていきたいです。

せっかくのオープンデータは、国が抱えていても意味がありません。いろんな領域の、いろんな知識や技術をもっている人が関心を持って、「プラトーってなんだろう」「ちょっと触ってみようかな」と思うところからイノベーションが生まれてくると思います。我々が想像もしないようなデータの使い方が、民間ベースでどんどん生まれてくることを期待したいです。

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