スウェーデンに学ぶDX推進の秘訣 電子請求書がもたらす資本効率化とは

スウェーデンに学ぶDX推進の秘訣 電子請求書がもたらす資本効率化とは

自己主張は控えめで、協調性が高く、新しい物好き。日本人と共通する部分の多いスウェーデン人ですが、人口1,023万人のスウェーデンは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やイノベーションのキーワードで高く評価されている、言わずと知れた「デジタル先進国」。環境負担への意識も高く、紙の書類をやり取りする機会も少ないといいます。今回は、スウェーデン大使館で広報・文化担当官を務めるアダム・ベイェ氏と、同じくスウェーデンに本社を置くグローバル企業グループ、アレイマジャパン株式会社の取締役副社長・鰰澤明氏をお招きし、DX推進の秘訣や、日本独特の商習慣を乗り越えるための具体例などを聞きました。

【プロフィール】

アダム・ベイェ(Adam Beije) 氏

アダム・ベイェ(Adam Beije) 氏

スウェーデン大使館 広報・文化担当官。
1978年、ストックホルム生まれ。
ストックホルム大学にて韓国語、日本語を学習(2008年、日本語学科修士号取得)。
2007年、スウェーデン初の日本語教科書を執筆(イラストも担当)。
2006~2008年、名古屋大学に研究留学。

鰰澤明(いなざわ・あきら)氏

鰰澤明(いなざわ・あきら)氏

アレイマジャパン株式会社 取締役副社長 財務担当役員
1967年 神戸市生まれ 滋賀大学経済学部卒
1997年 サンドビック㈱ 財務管理部に入社、主に主計業務に従事
2012年 兵庫県立大学専門職大学院経営研究科(MBA)入学
2020年 当時のサンドビックマテリアルズテクノロジ-ジャパン㈱(現アレイマジャパン㈱)取締役副社長、財務担当役員に就任

スウェーデンと比較した日本のDX・SDGsの課題

——始めにアレイマジャパンの事業概要や鰰澤さんの普段の業務内容などを簡単に教えてください。

鰰澤氏:弊社は、1862年に創業したスウェーデンに本社を置くグローバル企業グループ、アレイマの日本法人です。私たちアレイマは、エネルギー、航空宇宙、化学、半導体、電子部品など、最も要求の厳しい産業向けに高度なステンレス鋼や特殊合金、また抵抗加熱用ヒーターなどの高付加価値製品やサービスを提供する世界有数のメーカーで、従業員数は全世界で約5,500人、年間売上高は約138億スウェーデンクローナ(約1,850億円)となります。

元々はサンドビックグループの一事業体でしたが、より機動的な資金調達が可能になるという点などを鑑み、2022年8月31日に分離、独立し、改めてスウェーデン・ストックホルムのジャスダックに上場しました。日本法人の従業員は全体で約70名、私は6名が所属する財務部門で、財務諸表の作成や会社全般の資金繰りを担う財務の責任者を務めています。

——アダムさんも、これまでの職歴や現在ご担当されている業務領域など、簡単な自己紹介をお願いいたします。

アダム氏:ストックホルムの大学で日本・韓国学科を専攻しました。2006年から名古屋大学に留学をし、日本における朝鮮学校についての研究をしていました。2011年から大使館に勤めており、広報と文化の領域を担当しています。出身はストックホルムで、市役所の近くに実家があります。本日のテーマでは歴史、文化的な背景からもお話できればと思います。

——本日のテーマは「スウェーデンに学ぶDX推進の秘訣」ですが、日本経済研究センターが世界84カ国と地域を対象に実施した調査(https://www.jcer.or.jp/economic-forecast/2021122-7.html)によると、「JCERデジタル潜在力指数」でスウェーデンが首位という結果が出ています。アダムさんの実感も含め、この調査結果をどのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。

アダム氏:歴史的な背景から言いますと、1720年代までスウェーデンは軍事大国でした。しかし、大北方戦争での敗戦をきっかけに軍事力ではなく、研究や自由貿易に力を入れるようになっていきました。自由貿易が活発化するなかで、国民の起業家精神が養われていきました。小規模企業がグローバル企業に成長し、次世代のイノベーターを育て、新しいアイデアに挑戦するという土壌が少しずつできていったのです。ヨーロッパに位置しているので、積極的に国際市場で経済活動を行っています。

——日本企業ではなかなかDXが進まないという状況もありますが、スウェーデンと比べて、日本のDX化にはどのような課題が見受けられますか?

アダム氏:一般に、そこに「需要」と「期待」がなければ、DXの進む速度は緩慢になるでしょう。地震などの災害時に、現金がなければ困るという経験からかもしれませんが、日本ではまだまだ現金が好まれています。スウェーデンの場合、キャッシュレス化が進んでいて、民間企業はもちろん、公共サービスにおいてもキャッシュレスが浸透しています。こんなサービスが欲しい、もっと便利になってほしい、そうした「需要」がDXを押し進めるのではないでしょうか。

鰰澤氏:スウェーデンは人口がそれほど多くなく、国内のマーケットが小さいですから、ビジネスを拡大するには海外に出ざるを得ません。そのような状況の中で、企業は競争しているので世界に名だたるグローバル企業が数多く生まれ、DXも加速していったのではないでしょうか。

——スウェーデンは、SDGsの面でも世界ランキング3位と進んでいます。DXによるビジネスの効率化は、SDGsの達成にどのようなプラス効果があるでしょうか。

アダム氏:紙の書類を削減できることはもちろんですが、例えば役所で手続きを待っている時間を減らし、その時間でお金を稼ぎ、経済の発展に貢献することができます。もちろん、無駄な作業や時間が減れば、人生をもっと楽しむことができ、国民の生活がより豊かなものになる。社会にとっても、個人にとっても、DXにはメリットが多いです。

世界的にも特殊な日本の商取引慣習

——現在、鰰澤さんがご担当されている財務領域からの観点だと、日本とスウェーデンの間でどんな違いを感じますか?

鰰澤氏:日本の商取引は、グローバルで見るとかなり特殊です。海外企業は通常、納品ごとに請求が発生するので、末締め翌月支払といった締め処理の概念がありません。また、約束手形という支払い方法もないため、まず「手形とは」から説明が必要です。弊社の取引先は国内企業なので、締めはお客様それぞれのご要望にあわせており、支払いは数か月先になることも。国内では一般的でも、スウェーデンの本社からは特に日本法人だけは入金までが長いように見られてしまいます。ワーキング・キャピタル(運転資本)の効率化は毎年目標を掲げられ、売掛債権の処理、いわゆるオフバランス化は持続的なミッションです。

——いま、鰰澤さんのお話の中で「売掛債権」や「手形」といった用語が出ましたが、取引は「請求書」が起点になっているかと思います。現在、御社では請求書の発行やその後の処理をどのように行っていますか?

鰰澤氏:弊社では現在、請求書の発行にクラウド請求書サービスの「BtoBプラットフォーム請求書」を利用しています。数年前になりますが、プリンターとサーバーの入れ替えにともない、従来紙で発行していた請求書のインフラを切り替える必要が生じました。その際、「将来的に紙の時代ではなくなるのだから、もう請求書の送付はやめよう」と検討した結果、「BtoBプラットフォーム請求書」で発行することになりました。

今でこそ、電子帳簿保存法やインボイス制度に対応した同様のサービスが複数登場していますが、当時は電子保存の要件を備えていたのは「BtoBプラットフォーム 請求書」しかなかったと記憶しています。今は発行している請求書の8割ほどがデジタルです。紙の請求書を希望される取引先には、オプション機能の「郵送代行サービス」を利用しているほか、先方指定の請求書フォーマットがあるといった特殊な事情でも一部紙が残っています。

電子請求書早払いで資産のオフバランス化を実現

——コロナ禍をきっかけにDX化が進んだ会社は多いですが、それより前から紙の時代ではなくなると感じていらっしゃったのでしょうか?

鰰澤氏:本社のあるスウェーデンは昔から環境負荷への問題意識が強く、またデジタル先進国でもあります。締め処理がないのでそもそも日本の請求書のようなものはなく、納品書兼請求書のような形ですが、それも基本的にはメールで、紙の書類をやりとりする習慣はまずありません。こうした姿勢に日本の企業も学ぶべき点はたくさんあると思っています。

——その後、同じくインフォマートが提供している電子請求書を早期資金化できるサービス「電子請求書早払い」を導入されたとのことですが、導入された経緯や決め手、実際に使ってみた感想について教えてください。

鰰澤氏:まず、インフォマートとGMOペイメントゲートウェイ株式会社という、東証プライム上場企業2社によるサービスという安心感はありました。登記が不要で2者間で完結するので、手続きが簡便であるというのも利点の一つです。弊社は四半期決算を行っている関係上、定期的に売掛のリストを見て画面上から実務担当者が申請しています。審査から契約、利用までオンラインで完結するのはデジタルならではですね。

最初の審査の段階では、請求書だけでなく、納品書など用意しなければならない書類が多く、大変だと思いました。ただ、一度与信枠が確保できれば、その会社の債権の売却に関しては審査が簡略化されるので、手続きはそれほど難しくありません。金額的には12月末の本決算が一番大きく、営業部門もそこに向けて売り上げていくため、早期資金化の仕組みは大いに助かっています。弊社のように海外に本社があるグループ企業、外資系企業の日本法人は、似たような課題をお持ちではないでしょうか。「電子請求書早払い」はその悩みを解決するソリューションのひとつといえると思います。

——アダムさんは現在日本で働かれていますが、やはりスウェーデンと比較して紙の書類を扱う機会や頻度は多いと感じますか?

アダム氏:確かに紙の書類でのやりとりが多い印象はあります。子育て中の妻が頻繁に区役所に行くのですが、とにかく書類の提出が多いと話しています。スウェーデンは早い段階から世界最先端のデジタル大国になり、現在は、経済取引の99%以上がデジタルだそうです。公共サービスも例外ではありません。確定申告や、子ども手当の申請もスマートフォンで簡単に行えます。

——スウェーデンにおいて、官民でDXが進んだ成功要因はどのようなところにあると思われますか?

アダム氏:要因の一つに、スウェーデン人のデジタル能力の高さがあると思います。1990年代に政府がパソコン購入に対して補助金を出していましたし、インターネット接続環境の整備にも投資をしていました。同時期に大学ではインターネットの技術開発が行われていました。今から約20~30年前にそういった環境でデジタルソリューションについて学んだ若い世代が、現在は社会の中心となり、政府の中にもデジタル領域のリテラシーが高い人がいます。サービスを提供する側も、受ける側も、デジタル化やキャッシュレス化に抵抗がありません。75歳になる私の母でさえ、銀行の振り込みなどはすべてスマートフォンで行っています。

鰰澤氏:日本人はコンサバティブなところがあって、新しいものにシフトするのに抵抗感を抱く方も多いですよね。新しい物は好きだけれど、いっぽうで、今のやり方を変えたくないとも思う。そうした国民性であるがゆえに、DXが思うように進まないのかもしれません。

——DXが進んでいるスウェーデンにおいて、電子請求書システムはどのように普及してますでしょうか?また、日本では請求書の電子化の普及度も低く今後の課題になってくると思いますが、スウェーデンの普及経緯などから、日本企業へのアドバイスをもらえますか?

アダム氏:スウェーデンでは銀行の請求書払いの35%がデジタルで行われています。増加傾向だそうです。電子請求書の使用が法律で定められるようになってから、公共部門では90%が電子請求書です。これは元々EUの指令による法律であり、公共調達の請求書は電子請求書でなければならないことを定めています。日本でも、まずは公共部門で電子請求書システムを導入し、標準を定めると、徐々に民間部門も個人もそのシステムを使用するようになるでしょう。

DX化と生産性向上を共に達成するためには

——先の調査では、デジタル潜在力指数と1人当たり国内総生産(GDP)には一定の相関性があったという分析もあります。日本のデジタル潜在力指数に基づいた1人当たりGDPを試算したところ、6万4,893ドル(約740万円)と実際の数値(4万485ドル、19年)より60%多かったようです。スウェーデンは生産性ランキングでも世界上位に位置し、多くのグローバル企業を生み出していますが、その要因はどこにあるでしょうか?

アダム氏:諸説あると思いますが、鰰澤さんがおっしゃったように、人口が約1,000万人しかいないことも大きな要因かと思います。成長を目指す企業にとって、国内市場だけでは不十分ですから、最初から国際市場を目指すことになる。海外で商売をするという精神、マインドが昔からあり、ここ数十年のDX化によって、世界進出がより容易なものになったのだと思います。

——DX化と生産性向上という観点から、日本企業に向けたアドバイスなどがあれば教えてください。

アダム氏:やはり「需要」が大切だと思います。今日では、スマートフォンで簡単にアクセスできるソリューションが求められており、その期待に応えられない企業は顧客を失うことになります。もちろん、公共部門も同様で、国民からの期待は非常に高いはずです。先述の通り、確定申告や子ども手当など、各種手続きをスマートフォンで簡単に済ませられるような、そんなサービスが求められているのではないでしょうか。

——最後に、これまでの対談を受けて、アレイマ社の今後の展望についてお聞かせください。

鰰澤氏:今、電子署名サービスを利用した領収書の発行を考えています。ただ、紙の手形そのものがなくなれば領収書の発行も不要ですので、これも抜本的な業務改革を進めるきっかけにできればと思っています。手形を発行する側も、印紙を貼って押印して、郵便局に行って書留で送る手間がかかっているので、双方の効率化を考えたいですね。また、電子署名は電子契約書の機能を部分的に利用する形です。使い勝手がよければ契約締結そのもののデジタル化につなげていけるのではと構想しています。電子契約書サービスも、『BtoBプラットフォーム 契約書』を含め、多くのデベロッパーが提供していますので、我々の用途にあったサービスを見つけたいです。

余談ですが、スウェーデンをはじめ、ヨーロッパの方はすごくプライベートや家庭を大事にされていて、できるだけ早く仕事を終え、真っ直ぐ家に帰ります。夏は9時くらいまで明るいので、帰宅してから家の修理をしたり、ガーデニングを楽しんだりしています。そのためにITを使って、生産性を上げて、プライベートを充実させる、そういう意識がとても高いです。そういった意味で、ITが進む土壌があるのではないかと思います。日本は長い時間を会社で過ごして、むしろそのほうが楽しいという方もいる。どちらがいいのかは私もわからないですが、見方を変えれば、日本にはまだまだ改善の余地がたくさんあるとも言えます。さまざまなソリューションを一つひとつ取り入れていき、一歩ずつでも、DXを推進していけばいいのではないでしょうか。

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