自動化が進む経理業務で今後求められる役割とは 経営コンサルタントの林總氏に聞く

自動化が進む経理業務で今後求められる役割とは 経営コンサルタントの林總氏に聞く

決算書を作るための仕事とされ、利益をうまないイメージを持たれる経理部門。ベストセラー『餃子屋と高級フレンチではどちらが儲かるか』などで知られる経営コンサルタントの林總氏は、そうした認識にNOをとなえます。経理の仕事を、会社の利益を生み出す「プロフィットセンター」に変えるにはなにが必要か聞きました。

【林總(はやし・あつむ)】
公認会計士、税理士、LEC会計大学院客員教授、明治大学会計大学院講師。外資系会計事務所、監査法人勤務を経て1987年に独立。以後、国内外200社以上の企業に経営コンサルをおこなうとともに、講演活動、大学院で管理会計を教えている。主な著書に、ベストセラーとなった「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか」(ダイヤモンド社)、「ドラッカーと会計の話をしよう」(中経出版)、「会計課長 団達也が行く」(NB Online book)、「正しい家計管理」(WAVE出版)、「会計の教室」(ダイヤモンド社)などがある。

誤解されている経理の役割

誤解されている経理の役割

――林さんは著書を通じて、経理の重要性を発信しています。その狙いはなんでしょうか。

林氏:30年ほど前ですが、監査をしていたある上場企業の取締役経理部長が私に「経理は会社の宿り木だ」と言ったことがありました。じゃあ我々公認会計士は寄生虫なのか、と非常に腹立たしい思いをしました。たしかに有価証券報告書をつくる、決算書を作るといった仕事だけでは、価値を生んでいないとみられるかもしれません。

しかし経理部門の最大のミッションは、投資家や会社が利益拡大のために活用できるような会計情報を作り出すことです。つまり経理は利益を生まない「コストセンター」ではなく、利益の増加に貢献する「プロフィットセンター」といえます。

そのため経理担当者には理論だけでなく、現場にも密着しながら俯瞰(ふかん)的にものを見る能力が求められます。会計のテキストからではわからない、こうした仕事のイメージを伝えようと、本を書いてきました。

――そうした経理部門の重要性は、どの程度認識されているでしょうか。

林氏:大きな会社で、経理部がコストセンターだと考えているところは少ないと思います。一方で、中小企業はけっこう多いのではないでしょうか。決算書も税務申告目的で作るだけで、この情報を使って会社をよくしようと考えている経営者は少ないと思います。

たとえば、なぜ月次決算をするかといえば、会社の目標達成度(予算との乖離)を確認するためです。いわば自動車で目的地に向かうためのGPSで、ズレがあればその都度軌道修正していく必要がある。そうした考えかたで会計情報を使わなくてはいけません。

経理を会社の「神経系」に

経理を会社の「神経系」に

――経理が有効に機能している会社にはどんな特徴がありますか。

林氏:たとえばある大手製造業では、経理部が会社の「神経系」の役割を果たしています。親会社から子会社までの情報を各経理担当から直接収集し一元化しています。また、親会社から発信する情報を子会社まで浸透させる役割も担っています。

また、それぞれの経理担当者は現場をしっかり見ています。朝昼晩ひまがあれば工場をまわり、工場の実態が本当に財務諸表に表現されているかチェックする。現場の情報がどう会計の数字に変換されるかがわかれば、それを分析してまた現場にフィードバックすることができます。

経理に情報があつまり、その数字を肌感覚で理解することで、会計情報を活用して各部門がアクションをとり、利益が増えるという循環がうまくいくようになります。

――経理をプロフィットセンターとして機能させるため、経理担当者にはどんな意識が必要でしょうか。

林氏:近視眼的にならず、会社の価値をいかに増やしていくかという経営の視点を持つべきです。たとえば、本社部門費を各事業部に配賦する場合、ほとんどの経理担当者は前例踏襲で、その配賦基準に疑問を持つことはほとんどありません。例えば売上高基準をとる会社が多いのですが、それは間違いではないかと声を上げる経理担当者は少ない。 ここにメスを入れなければ、本社費は減らないし、本当はもうかっている事業部が冷や飯を食っていることもわかりません。

事業部別の採算を可能な限り正確に把握することは重要です。ある年商120億円の赤字企業の話です。この会社には売上高30億円の大きな事業部がありましたが、ここのコスト集計があいまいで、利益が出ているのか損失なのかわからない状態が続いていました。売上高を重視する経営者はこの部門が会社の大黒柱と思い込んでいました。

ところが管理会計システムの見直しにより、その部門が巨額の赤字を出していることが判明しました。資金繰りが厳しい原因もこの事業部によるものでした。経営者を説得してその事業部を廃止したとたん、会社は黒字になり資金繰りは楽になりました。会計情報はこうした活用ができるのです。言い古された言葉ですが、経理こそが企業参謀と言えます。

経理こそ様々な経験を

――会社側は、企業参謀になるような経理担当者をどのように育てればよいですか。

林氏:経理担当にこそいろんなことを経験させるべきです。特に実際の業務現場とITですね。

製造業ならまず工場です。どうやって生産数量を決め、材料を調達し、納期までに製品を作り上げ、営業に引き渡すか。そして営業は製品を出荷して代金を請求し、回収する。こうしたビジネスフローを理解し、実際に体験する必要があります。2~3年ごとに各部署を経験すれば、現場の活動、関連部署間での価値観の違いが理解することができます。この理解が経営参謀たる経理担当者には必要です。

もう一つのIT。とりわけERPです。経理担当者はERPの全体像を頭に入れる必要があります。これは各業務システムと会計システムを統合したアプリケーションソフトであり、会社の業務の流れ、部門間の接点、業務データと会計データとのつながりが全てわかるからです。業務データと結びついた会計データはデータベースに蓄積されますから、経営参謀たる経理担当者は、意思決定に必要なデータを自在に収集できるようになります。

――明日からにでもできることはありますか。

林氏:無駄な作業をやめることですね。まず、経理部内でおこなっている業務を書き出してください。そして1週間でどの業務にどのくらいの時間を使っているかを可視化するのです。すると重複や無駄な作業といった思いもよらないことが見えてきます。さらにそのひとつひとつの作業に属性を定義してください。価値を生み出しているもの、価値を生み出していないものに分けて表にしていくのです。伝票入力や間違い探しといった無駄な時間にどれだけ良かったかがわかります。同じ内容のエクセルシートを複数の担当者が別々に作成していることも珍しくはありません。ぜひ一度やってもらいたいと思います。

これから経理の役目とは

これから経理の役目とは

――近年は様々な会計ソフトの普及によって、経理も自動化、効率化が進んでいます。経理担当者にはこれからどんな役割が求められるでしょうか。

林氏:近年、会計ソフトも色々充実してきています。必要なフォーマットを決めてパターン化しておけば、仕訳の9割くらいは自動的に生成されます。言うまでもなく伝票入力自体は価値を生みません。自動化をすすめてできた時間は、会社に価値を付与する作業に使うのです。

最後に、経理担当者が学ぶべき管理会計について付言したいと思います。
多くの経理担当者の仕事は財務会計業務です。しかし、会社のムダを省き、生産性を向上させ、積極的に会社に価値を付与するためには管理会計を学ぶ必要があります。真の経営参謀になるための必須知識と言って過言ではありません。

注目の記事