発注書・注文書の役割とは? 書き方例や交付方法をまとめて解説

発注書・注文書の役割とは? 書き方例や交付方法をまとめて解説

「発注書」は、売買取引において商品やサービスを発注(注文)する際に交付される書類です。

下請事業者と取引のある企業の営業事務や経理担当者であれば、発注書を作成する機会も少なくないでしょう。

今回は、発注書を作成・交付する担当者に向け、発注書の役割や書き方、発注書の送り方や取引の流れなどについて分かりやすく解説します。

石動総合会計法務事務所代表 石動龍様

【この記事の監修者】
石動龍

石動総合会計法務事務所代表

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。ドラゴンラーメン(八戸市)店長、ワイン専門店 vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。2021年中の不動産業開業が目標。
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発注書とは

発注書とは、発注者側が受注者側に対して発注する意思を示すために作成・交付する書類のことです。一般的に発注書には、企業名や担当者名の他、商品名や金額、納期や支払い条件など、取引に関する詳細を記します。

また、民法上、発注書の交付は契約の申し込みに該当します。そのため、取引基本契約がなくても、契約内容が特定できる発注書とそれを受ける請書があれば、契約が成立します。

“第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。”
(引用元: 民法 | e-Gov法令検

発注書の役割

発注書には、主に2つの役割があります。

  • お互いの認識の相違から起こるトラブルを防ぐ
  • 仕事をする上での信頼感につながる

もし、発注書を作成せず口約束だけで取引を進めてしまった場合、後から「言った・言わない」や「勘違い」などのトラブルになってしまう恐れがあります。

発注書に取引の詳細を記すことで、プロジェクトのスタート前にお互いの認識を再確認することができ、食い違いから起こるトラブルを防ぐことにつながるのです。

発注書を発行することは、取引の信頼性を高める役割も備えています。

発注書と注文書との違い

発注書と同じような場面で使われる言葉に「注文書」がありますが、両者に法的な違いはありません。

※当記事では、発注内容に関係なく「発注書」の名称で統一しています

発注書と請書の関係

発注者側から交付される発注書に対して、受注者側が作成・交付する書類を「請書(発注請書・注文請書)」と言います。

請書は、発注書の内容について同意し、引き受ける意思を示すものです。発注書と請書を取り交わすことで契約成立と認められるため、対になったそれらの書類は契約書と同等の効力を持ちます。

発注書の作成はなぜ必要なのか

企業間取引において、発注書の作成は必須ではありません。ただし、下請法(下請代金支払遅延等防止法)に該当する取引では、親事業者(発注者側)は下請事業者(受注者側)に交付する義務があります。なぜなら、下請取引の場合、一般的に親事業者が優位な立場になりがちであるためです。

前述のように、発注内容の誤認などによるトラブルが起きた際、立場の弱い下請事業者だけが不利益を被ることも考えられます。

下請法は、個人事業主や小規模事業者などの下請事業者を保護する目的で定められており、取引が公正に行われるための法律です。自社の取引が下請法の適用対象となる下請取引に該当するかどうかについては、公正取引委員会のウェブサイトで確認しておきましょう。

<参照>
下請法の概要|公正取引委員会

3条書面の記載を満たす必要がある

発注の際、親事業者が下請事業者に交付する義務のある書面は、下請法の第3条に定められていることから、一般的に「3条書面」と呼ばれています。

下請法の「書面の交付義務(第3条)」によると、発注に際し、親事業者は必要事項が全て書かれた書面を直ちに交付するとされています。

“親事業者は,発注に際して下記の具体的記載事項をすべて記載している書面(3条書面)を直ちに下請事業者に交付する義務があります。

  • 【3条書面に記載すべき具体的事項】
  • (1) 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
  • (2) 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  • (3) 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
  • (4) 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
  • (5) 下請事業者の給付を受領する場所
  • (6) 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
  • (7) 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
  • (8) 下請代金の支払期日
  • (9) 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  • (10) 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  • (11) 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  • (12) 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法”

(引用:親事業者の義務|公正取引委員会

なお、記載事項は定まっていますが、その様式は特に制約はありません。それぞれの親事業者が、発注・納品、経理など個々の下請取引の内容に即した内容を作成することができます。

発注書を発行する売買取引の流れ

売買取引では、見積書・納品書・請求書など複数の「証憑(しょうひょう)」が使われます。証憑とは取引内容や取引条件などを記した証拠資料のことで、発注書もこれに該当します。

以下に、発注書の発行を伴う売買取引の一般的な流れと、発注書と請書以外の主な証憑の役割をまとめたので参考にしてください。

「発注書を発行する売買契約の流れ」イメージ図
証憑書類 役割
見積書 依頼内容に応じた商品、金額、数量、納期などを記したもの。発注書は基本的に見積書の内容を基に作成する。
納品書 納品する商品の明細を記したもの。納品の際に納品物と一緒に交付する。
受領書 商品が納品されたことを記したもの。納品物を受け取った際に交付する。 (※商品の内容に間違いがないことを示すものではない)
検収書 納品物の内容が契約通りであることを記したもの。納品された商品の検収後に交付する。
請求書 納品物に対する請求金額や振込先を記したもの。納品、もしくは検収完了後に交付する。

発注書の書き方

発注書には、定められたフォーマット(書式)はありません。

そのため特に書き方に決まりはありませんが、下請法に該当する取引の場合は規定の内容が全て記されている必要があります。下請取引の際の記載ルールについては、後述している公正取引委員会公開のテンプレートを参考にしてみてください。

記載しておくと良いとされる項目を踏まえた、一般的な書き方例は以下の通りです。

一般的な発注書の書き方例

一般的な発注書の書き方例

タイトル
発注書、または注文書と記載する。

交付先(受注者名)
発注先の会社名、担当者名を記載する。

発行年月日/発注書No.
作成した日付と管理用の発注No.を記載する。

発注元(発注者名)
発注元の会社名、住所、連絡先、担当者名などを記載する。

件名
発注するプロジェクトの件名を記載する。

発注金額/納品期限
発注の合計金額と納品期限を記載する。

支払条件/納品場所/有効期限
支払条件(請求締め日と支払日)と納品する場所、発注書の有効期限を記載する。

発注内容
商品名や数量などを記載する。

小計/消費税/合計
税抜きの合計金額と消費税額、税込みの合計金額を記載する。

備考
特筆すべき事項がある際に記載する。

ちなみに、発注書に押印の義務はなく、印鑑や角印(社印)が押されていないからといって無効になるようなことはありません。

ただし、「担当者の一存ではなく会社として正式に発行された文書」であることの証明として、取引の信頼性を高めるために角印を押す企業も多いです。

また、発注書は原則として収入印紙は必要ありません。しかし、発注書(注文書)が契約書と判断される場合などによっては、収入印紙が必要となるケースもあるので注意しましょう。

契約が締結するのは、発注書を発行して請書が交付された時点となります。そのため、請書が課税文書に該当する場合には、発注書にも収入印紙を貼付するのが一般的です。ただし、FAXやメールでの送信の場合や受注額が1万円未満の場合は収入印紙は不要です。

<参照>
申込書、注文書、依頼書等と表示された文書の取扱い|国税庁

発注書のテンプレートはある?

公正取引委員会では、下請取引に使用できる発注書のテンプレートを見本として公開しています。取引内容に応じた複数のテンプレートが用意されているので、書き方の参考にしてください。

<参照>
法令・ガイドライン等(下請法)|公正取引委員会
 L 下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則(平成21年6月改正)。<書面の参考例>

他には、「発注書 テンプレート」「発注書 雛形」「発注書 様式」などのキーワードでウェブ検索する方法もあります。

一般的な表計算ソフト用テンプレートや、無料でダウンロード可能なテンプレート、英語のテンプレートなど多数公開されているので、目的に合ったものを利用すると良いでしょう。

「金額なし」の発注書も有り得る?

下請法では、原則として発注書には金額を明記する必要があると定められています。ただし例外として、発注書を作成した時点で記載できない「正当な理由」がある場合のみ、金額なしのものも認められています。

金額に限ったことではなく、本来であれば必須事項である商品名や数量などについても「内容が定められない正当な理由がある」と判断されれば同様です。

例えば、ソフトウェア制作を委託する際、「発注時点ではエンドユーザーが求める仕様が確定していないため、正確な業務内容や下請代金を記載できない」などがこれに該当します。その場合は、記載できなかった事項について「理由」や「内容が定まる予定期日」などを記す必要があります。

<参照>
各種パンフレット|公正取引委員会
ポイント解説下請法|公正取引委員会

発注書を送る方法とタイミング

先方へ送る際の具体的な手段やタイミングについてまとめました。

発注書を送る手段は主に3つ

発注書を送る方法は、メール、FAX、郵送などがあります。メールの場合は、PDFで作成したものをメールに添付します。

取引を迅速に進めたい場合はメールやFAXが便利ですが、送付後は確認の電話をするか、後日改めて郵送で原本を送ると紛失などのトラブルが起こりにくくなります。

なお、メールで郵送する場合は電磁的記録にあたり留意事項があります。公正取引委員会の「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」によると、以下のように記されています。

“下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。例えば、通常の電子メールであれば、少なくとも、下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。また、携帯電話に電子メールを送信する方法は、電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので、下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。”
(引用:下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項|公正取引委員

さらには、書面の交付に代えてウェブのホームページを閲覧させる場合にも注意が必要です。

“下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録したことにはならず、下請事業者が閲覧した事項について、別途、電子メールで送信するか、ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。”
(引用:下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項|公正取引委員

要するに、発注書をただメールで送っただけでは提供したとはならず、受取側のパソコンにきちんとメールが受信され、かつファイルに記録される必要があります。

発注書を送るタイミング

発注書は、発注者が受注者に交付するものです。具体的なタイミングとしては、見積書を受け取った後、注文内容・金額・納期などを双方で確認し、発注確定となった時点で作成・交付を行いましょう。プロジェクトをスムーズに進行させるためには、発注書は作成完了後、できる限り速やかに交付するのが望ましいでしょう。

発注書の保管や注意点について

発注書は「取引等に関して作成又は受領した書類」に該当するため、国税庁によって定められた期間、保管する義務があります。

保管期間は法人であれば原則7年間、個人事業主であれば原則5年間です。

例外的に法人が9年間や10年間、個人が7年間となるケースもあるため、自社の保管期間が知りたい場合には国税庁のウェブサイトで確認しておきましょう。

また、発注書は紙による保管が原則のため、PDFデータなどの場合はプリントアウトした状態で保管する必要があります。

一定の要件を満たした場合のみ、電子データでの管理が認められます。

<参照>
No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法|国税庁

下請法に違反すると罰則がある

下請法に該当する取引では、発注書は親事業者である発注者が、下請事業者である受注者に交付する義務があります。親事業者が下請法に違反した場合には,公正取引委員会から、勧告を受けたり、罰則を科せられたりする可能性があるので、注意しましょう。

発注書の役割を理解して作成しよう

発注書は、売買契約の証拠となる重要な書類です。経理や総務担当者以外にも、営業や営業事務担当者が作成に携わることもあるので、役割や作り方についてしっかり理解しておきましょう。書き方例などを参考に、自社で使える汎用テンプレートを用意しておくと取引がスムーズに運びます。

また、時間をかけたくないのであれば、手軽に作成できるオンラインサービスやアプリを活用するのもおすすめ。発注書を電子化し、作成・管理にかけていた時間を短縮することで、作業効率アップや人件費削減につなげることができるでしょう。

<この記事のポイント>

  • 発注書は商品やサービスを発注する際に作成される書類
  • 売買取引において、認識の相違などを防ぐ役割がある
  • 下請取引に該当する場合は発注者側に発行の義務がある
  • 発注書と請書を取り交わすことで正式に契約を締結したことになる

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