RPAで経理業務を自動化するメリットとは?仕組みや導入フローを解説
働き方改革やバックオフィス業務のデジタル化が推進されていることから、近年「RPA」に注目が集まっています。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、特に経理・会計業務と相性が良いため、膨大な定型業務を自動化して人員不足を補おうと導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。
今回は、RPAの意味から経理部門に導入するメリット、仕組み、使い方までを分かりやすく解説します。
「RPA」とは?
「RPA」はRobotic Process Automationの略で、ロボットが業務プロセスを自動化するという意味です。「Digital Labor(仮想知的労働者)」や「ソフトウェアロボット」などとも呼ばれ、RPAツールとはその名の通り、主にパソコン上で行う業務を人間に代わって遂行するツールを指します。
日本のRPAの市場規模は、2016年度から右肩上がりで、2023年度には2016年度と比べて約18倍に成長すると予測されています。既にシェアが広がっている大手企業だけでなく、今後は中小企業や地方自治体などの利用も拡大されていくと見られています。
(参照)
RPA市場に関する調査を実施(2020年)|矢野経済研究所
RPAの仕組みとできること
初めに人間がパソコンに作業手順をインプットします。この手順を「シナリオ」と呼び、ロボットがそのシナリオに沿って自動的に処理を実行します。シナリオやRPAの導入方法の詳細については、後述します。
RPAはその仕組み上、基本的に都度判断が必要な作業や、臨機応変に手順が変わるような業務を行うことはできません。(※)
しかし、一定のルールで繰り返されるルーティンワークや手順が変わらない定型作業であれば、実行時間はパソコンの処理性能によりますが、人間よりもはるかに速く正確に処理することができます。
動作環境さえ整っていれば24時間365日稼働させることができるため、例えば、人間が就業時間内に行っていた業務を、就業時間外である夜間に終わらせてしまうことができるようになります。
※当記事で解説しているRPAは、Class1と呼ばれているツールです。より高度なClass2「EPA」やClass3「CA」の場合、非定形作業や分析処理の自動化に適用しているものも存在します。
なぜ今RPAが注目されるのか
RPAが注目される背景として、近年多くの企業で「DX」への取り組みが推進されていることが挙げられます。
DXとはDigital Transformationの略で、「IT技術の浸透が人々の生活をより良いものへ変革させる」という概念・考え方のことです。また、DX推進ガイドラインでは以下のように定義されています。
”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
(引用:
DX推進ガイドライン Ver. 1.0|経済産業省
)
生産年齢人口の減少が問題となっている日本では、特に人材不足は多くの企業が抱えている課題で、改善が望まれています。DXは、人材不足を解消する手だてとしても着目されており、中でもRPAは、DXアプローチの一環として注目を集めているツールです。
これまで人間が行っていた単純作業を自動化できるRPAにより、業務効率化に加え、人件費の削減や人材不足の解消にもつながります。また他のツールに比べて、RPAの操作は直観的に行えるものが多く、専門的なプログラミング知識がないスタッフでも業務の登録や書き換えができるという特徴があります。
これまでDXに取り組みたくてもスキルがなく、デジタル化に踏み出せなかった事業者にとって、ツールとしての扱いやすさも支持される大きな要因の1つでしょう。
RPAの特徴と他のツールとの違い
RPAと混同されがちな業務自動化ツールに、「AI」や「マクロ」があります。これらは似ているようで、実際には異なる特徴があるので覚えておきましょう。
ツール | 使用場所 | 特徴 |
---|---|---|
RPA | 不特定のアプリやソフトウェアなど | ・登録されたルールに従って自動で実行する ・専門的なプログラミング知識がなくても操作可能なものが多い ・AIと比較すると導入コストが低い |
AI(人工知能) | 不特定のソフトウェアやプロダクトなど | ・データベースを基に学習し自律的な判断で実行する ・単体ではなく製品の付加機能として利用されることが多い ・運用や開発にコストがかかる |
マクロ | 特定の表計算ソフトなど | ・事前に記録した複数の操作を呼び出し自動で実行する ・「VBA」など専門のプログラミング言語を使用する |
ちなみに、RPAとよく一緒に使われる言葉に「OCR」がありますが、こちらは業務自動化とは異なった性能を持つツールです。
OCRとはOptical Character Recognitionの略で、日本語にすると「光学文字認識」という意味です。手書きや印刷された画像内の文字などを認識し、テキストデータ化する機能のことで、RPAとの連携でさらなる業務効率化を進めることができます。
RPAに向いている業務
RPAで自動化できるのは、主にパソコン上で処理する定型業務ですが、例として以下のような業務が該当します。
- 勤怠、請求書、売上伝票などのデータ入力
- ファイルのダウンロードやアップロード
- データの大量コピー、ペースト、変換
- 発送伝票の大量作成、印刷
- 営業成績データのグラフ化
- 定型メールの一斉送信
- 領収書データからの交通費の清算
- 顧客情報の収集や照会 など
RPAには、毎日行う定型作業や定期的なデータ収集、アプリやソフトをまたいで行うデータ変換などが向いています。
その点からいうと、経理や人事、営業事務などの部門は特にRPAとの相性が良いでしょう。
複数のアプリやソフトとの連携も可能
RPAは、異なるアプリやソフトを連携させた同時処理も可能です。そのため、複数のアプリをそれぞれ起動させたり、ブラウザでログインを行ったりする必要がありません。
例えば、SFA(営業支援システム)に溜まった営業データを表計算ソフトにコピーし、週ごとにまとめてグラフと表を作成することなども、一度登録すれば自動で実行してくれます。
RPAを経理業務に導入するメリット
経理の主な業務は、パソコンでのデータ入力や照らし合わせです。月末の請求書作成や給与支払処理など、サイクルと手順がルール化されたルーティンワークが多いです。
RPAを経理に取り入れる場合、以下のようなメリットがあります。
① 業務のスピードアップ
1つ目のメリットは、人の手で行うよりも業務スピードが格段にアップすること。ロボットが稼働するので、業務時間後に処理をすることもできます。大量なデータ処理を行える製品のRPAなら、一度に100体以上のロボットに同時処理させることも可能です。年間で50%以上の作業時間を短縮できた事例もあります。
また、RPAをOCRと連携させれば、今まで手入力していた紙ベースの領収書や請求書のデータ化も容易になります。
② 数字の入力ミスや計算ミスがなくなる
2つ目のメリットは、経理処理で起こりがちな数字の入力ミスや計算ミスを回避できること。人の手で作業をする場合、何度確認作業をしてもミスは発生しやすいでしょう。
しかし、RPAによるデジタル処理を行えば、「入力を1桁間違えた」「疲れていて数字を見間違えた」などの人間の不注意によるミスを防ぐことができます。
③ 人材不足をカバーできる
3つ目のメリットは、RPAによる自動化で人材不足をカバーできること。これは経理に限ったことではありませんが、定型作業をRPAに任せることで人間の労働時間を減らし、人件費削減や労働環境の改善につなげることができます。
バックオフィス業務の中でも、特に相性が良い経理業務にRPAを導入すれば、手が空いた人員を、判断が必要な作業など人間にしかできない業務へ回すことができるのも大きなメリットです。
RPAを経理業務に導入するデメリット
RPAを経理業務に導入することは多数のメリットがある半面、リスクやデメリットもあります。導入を検討する場合、事前にチェックしておきましょう。
① エラーが起こる、停止することがある
1つ目は、ロボットにエラーが起きたり停止したりする可能性があること。RPAは、インプットされたルールに従い自動で処理を実行するという仕組み上、「例外」に弱いという特性があります。頻繁に例外的な事象が発生した場合などは、エラーを起こして処理を停止してしまうこともあります。
② 登録や管理は人間が行う必要がある
2つ目は、自動化させたい経理業務をロボットに登録させる作業と、エラーが発生した際の人保守管理は人間が行う必要があるということ。ロボットに正確な処理をさせるために業務フローを可視化しておくことはもちろん、併せて管理者はRPAの使用方法を理解する必要があります。
③ 課題や改善点を見出すことはできない
3つ目は、RPAはインプットされた経理業務を行うことはできても、課題や改善点を見出すことはできないということ。RPAが実行するのはあくまでシナリオに基づいた作業だけなので、例えば、領収書の内容が人間の目で見たらまず有り得ないようなものだったとしても、疑問を持つことなく処理を進めてしまいます。
業務中に改善点を見つける能力や、算出された経理データを事業の運営に活かすような発想力はRPAにはないため、それらは人間にしかできない仕事です。
中には「RPAの導入が進むと経理担当者の仕事がなくなるのでは?」という声もありますが、現在のところRPAは人間の業務を補佐するような位置づけにとどまっています。
自社に合ったRPAツールの選び方
RPAツールは、様々なベンダー(製造元・販売供給元)からリリースされており、それぞれ特性やサポート体制、価格などが異なります。
自社に適したRPAツールを導入するために、種類や選び方をチェックしておきましょう。
RPAツールの種類から選ぶ
RPAツールは導入形態によって、大きく「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類に分けられます。
タイプ | 導入コスト | 特徴 |
---|---|---|
クラウド型 | 比較的抑えられる |
・インターネットを介してWebブラウザやアプリ上で使用する ・導入までのリードタイムが少なくてすむ ・オンプレミス型に比べると活用範囲に制限がある ・専門知識がなくても活用しやすい |
オンプレミス型 | 比較的高くなる |
・自社に専用サーバー(またはパソコン)を設置して運用する ・導入までのリードタイムが必要 ・自由にカスタマイズや連携ができる ・有効活用するには専門知識が必要 ・セキュリティーが強固 |
インターネット環境さえあれば誰でも利用できる「クラウド型」は、比較的低コストで導入リスクも低いため、ITに強い人材がいない事業者でも気軽に取り入れることができます。
クラウド型は活用範囲がWebブラウザやアプリに限定されるため、クラウドサービス以外のアプリやソフトなどと連携できないこともあるので注意が必要です。
一方、自社専用システムを構築する「「オンプレミス型」は汎用性が高く、業務に合わせて自在にカスタマイズできるのが強みです。セキュリティー面にも強いため、高度な機密情報を取り扱う企業ではオンプレミス型が選択されることも多いでしょう。
ただし導入にはコストと時間がかかり、カスタマイズや保守管理を行うためには専門的な知識を持った人材が欠かせません。
オンプレミス型はさらに2種類に分かれる
オンプレミス型はさらに「サーバー型」と「「デスクトップ型」に分けることができ、それぞれ以下のような特徴があります。
タイプ | 導入コスト | 特徴 |
---|---|---|
サーバー型 | 比較的高くなる |
・自社サーバー内でロボットを稼働させる ・複数のパソコンを使った同時作業や連携ができる |
デスクトップ型 | 比較的抑えられる |
・パソコンのデスクトップ上でロボットを稼働させる ・個人単位の作業ができる |
自社サーバー内に組み込んだロボットを一括管理する「サーバー型」は、組織全体でRPAツールを共有できるのが最大のメリットです。大量データの同時処理や、経理と人事など部署をまたいだ連携ができるため、大企業向きと言えます。
一方、個人のパソコンにRPAツールをインストールして使用する「デスクトップ型」は、スモールスタートしたい中小企業におすすめです。比較的安い費用で導入でき、1台のパソコンで完結できる業務に向いている半面、組織全体のデータを連携させたい場合などには不向きです。
自動化させたい業務内容から選ぶ
RPAツールを選ぶ際は、事前に自動化させたい業務内容を洗い出しておくことも重要です。
拡張機能や、広範囲な連携ができるRPAツールは便利ですが、スペックに比例して導入費用が高額になることも。自社の使用範囲や規模によっては、わざわざ多機能型のRPAツールを選ぶ必要がない場合もあるでしょう。
特定の業務や分野のみに活用するのであれば、それに特化した「特化型」と呼ばれるRPAツールもあります。経理部門でしか使用しないのであれば、経理・会計業務をサポートするために開発された特化型RPAツールを検討してみてください。
操作性やサポート体制から選ぶ
操作性や導入後のサポート体制も大切なチェックポイントです。特に社内にITに強い人材がいない企業の場合、実際にツールを使いこなせるかどうかは重要な問題でしょう。
運用に不安がある場合には、システムの管理者向けに勉強会を開催していたり、随時質問ができるオンラインサポートがあったり、フォローが充実しているものがおすすめです。
フリートライアルやベンダー(または代理店)主催のセミナーなどを利用しながら、自社の規模と業務内容に合ったRPAツールを探してみてください。
RPA導入から経理業務に活用するまでの流れ
一般的に、RPAの使用手順は「シナリオの作成」→「作業の実行」→「結果検証・改善」の繰り返しといったシンプルなものです。
ただし、効果的な運用をするためには、導入前後に適切なステップを踏むことが大切です。
RPA導入までのステップ例
会社の規模や組織体制などによって一定ではありませんが、経理部門の場合は以下のようなステップを踏むことで導入後の失敗が少ないと言われています。
1)現在行っている業務プロセスや業務量を洗い出し、可視化する
↓
2)1で洗い出した経理業務の中で、RPAで自動化させる業務を選定する
↓
3)導入するRPAツールを選定し、運用ルールや担当者を決める(可能であればフリートライアルや体験会セミナーなどを活用する)
↓
4)導入開始、まずはスモールスタートで運用する
↓
5)効果検証や調整を行う
↓
6)4・5を基に、自動化する業務範囲や規模を広げ本格導入する
導入前にRPAの運用体制を明確化させておき、導入後は規模の小さい業務からスタートさせることで、リスクを減らすことができるでしょう。
RPAで経理業務を自動化させるシナリオの作成例
RPAにおけるシナリオとは、「作業手順」のことです。RPAを導入したい業務のフローチャートを可視化したものが、シナリオと呼ばれます。
経理部門のシナリオ例を紹介します。
<表計算ソフトを使って請求書を作成する場合>
パソコンで表計算ソフトを開く
↓
請求書のフォーマットを開く
↓
日付を入力
↓
件名を入力
↓
提出先の企業情報を入力
↓
商品(サービス)名を入力
↓
数量を入力
↓
単価を入力
↓
ファイル名を付けて所定の場所へ保存
↓
作成した請求書データをプリントアウト
シナリオを作成したら、それを基にRPAで自動化させる範囲を決定します。この際、慣習的に行っていただけの作業や非効率な作業などの見直しを行うことで、より業務効率がアップするでしょう。
RPAツールへの実装は、「ノード」と呼ばれる要素を並べて行います。ノードとは「処理単位」のことで、1つのノードごとにアプリケーションの操作内容や条件の分岐などを設定していくことでシナリオが実装される仕組みです。
実際の操作方法はRPAツールごとに異なりますが、チャート画面に沿ってドラッグ&ドロップだけで設定できるようなものであれば、専門知識不要で扱うことができるでしょう。
導入時の課題や陥りやすい失敗
RPAで最も多いといわれている失敗例が「導入したけれど、活用しきれていない」というものです。理由として、以下のような原因が挙げられます。
- RPAで解決したい課題や目的が不明瞭だった
- RPAの操作方法や活用範囲を理解せずに導入した
- 責任者やトラブル発生時のルールを決めていなかった
- 結果検証や数値的な効果測定をしていなかった
いくら便利なツールでも「何のために導入するのか」や「何に使うことができるのか(活用範囲)」がはっきりしない状態のまま導入しては、効果を発揮することはできません。
RPAを導入する際は、目的を明確にし、業務がどう効率化されたのか測定することも大切です。導入して完了ではなく、継続的にPDCAサイクルを回しながらRPAを「運用」していくイメージを持っておきましょう。
RPAで経理業務の効率化を図ろう
RPAは、ルールが決まった定型業務を効率化してくれるソリューションシステムです。ルーティンワークが多い経理・会計部門とは特に相性が良く、導入事例や実際に導入後に業務時間が大幅に縮小された例も数多くあります。
導入のための初期コストはかかりますが、業務効率化と課題解消の両方にアプローチできるため、新規で人員を雇う場合のコストと比較しても企業にとってメリットは多いでしょう。
経理業務の効率化やDXへの取り組みを模索しているのであれば、「RPA」という選択肢を加えてみてはいかがでしょうか?
<この記事のポイント>
- RPAとは、主にパソコン上で行う業務を人間に代わってロボットが自動化すること
- RPAは、ルーティンワークや定型業務に向いている
- 効果的にRPAを運用することで、業務効率化や人材不足の解消などにつながる
- RPAツールは、主にクラウド型、オンプレミス型(サーバー型orデスクトップ型)の種類に分かれる