未収入金とは? 仕訳の方法や売掛金・未収収益との違いを解説
貸借対照表の「資産の部」にある債権の勘定科目「未収入金」。同じ資産の部にある売掛金や未収収益と混乱しがちです。未収入金は銀行が企業に融資するか否かの判断材料となるため、間違えて表示すると、銀行から融資を受けたいときに影響を及ぼす可能性があります。
そこで、正しく仕訳するためにも、未収入金が売掛金、未収収益とどのように違うかや、未収入金の仕訳例について解説します。
未収入金とは?
未収入金とは、未回収の金銭を計上するための勘定科目で、一般的に本業の営業活動以外の取引で発生した債権のことです。保有資産の売却など、主に物の売却などで後から現預金での回収が見込まれるものを指します。
例えば、有価証券の譲渡、固定資産の譲渡・売却、不動産の貸付けなどが該当します。
貸借対照表上での取扱い
貸借対照表は、企業の一定時点における資産、負債、純資産の状態を表す書類です。記載は左右に分かれ、左側の「資産の部」と右側の「負債の部」「純資産の部」に分類して見るのが基本です。
未収入金は、貸借対照表上では「資産の部」に分類されます。
また、原則として、未収入金の回収予定が決算日から1年以内の場合は「流動資産」に、1年を超える場合は「固定資産(投資その他の資産)」に「長期未収入金」として表示します。
帳簿には「借方」で記入する
仕訳の際は、実際に金銭が入金されていなくても、後日入金される未収入金は資産が増加しているため、帳簿には「借方」で記入します。
未収入金の仕訳方の具体例
では、本業の営業活動以外で生じた未収入金の仕訳の方法について、「固定資産を譲渡した場合」、「土地や不動産を貸付けした場合」「自社の商品ではない社用車を売却した場合」の3つの例で詳しく解説します。
① 固定資産を譲渡したときの仕訳
固定資産を譲渡するときは、売却損益や減価償却、消費税なども発生するので少し複雑です。さらに、減価償却の仕訳には「直接法」と「間接法」があり、仕訳の方法が異なります。
- 直接法の仕訳:固定資産から減価償却費を差し引いて貸方に固定資産勘定を記入
- 間接法の仕訳:固定資産の金額は変わらず、減価償却費の累計額を記入
例えば、A社が機械装置(取得原価200万円、減価償却累計額100万円、残存簿価100万円)をB社に100万円で譲渡したとします。しかし、代金をまだ受け取っていない場合の直接法と間接法の仕訳例は下記の通りです。
ちなみに、取得原価とは、資産を購入によって取得した場合に購入代価に付随費用を加えた価額のことで、減価償却費は、経年や使用によって価値が減少し、1年以上保有し続ける固定資産を取得した場合、その費用の全額をその年には計上せず、耐用年数に応じて分割して会計処理をする勘定科目のことです。残存簿価とは、耐用年数が経過したあとに残る価値のことです。
▼直接法
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 1,000,000 | 機械装置 | 1,000,000 |
▼間接法
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 1,000,000 | 機械装置 | 2,000,000 |
減価償却累計額 | 1,000,000 |
直接法と間接法はどちらを採用しても問題ありませんが、直接法の場合、実際には減価償却があるので、固定資産科目の金額は減価償却分を差し引いて表示しますが、帳簿を見たときに取得原価が不明瞭です。
一方で、間接法の場合は、固定資産科目の金額は変わらずに減価償却累計額が増えていくため取得原価を残しておくことができます。違いをよく理解した上で、どちらを採用するか判断しましょう。
また、固定資産の未収入金の仕訳のもう一つの例として、土地の売却についてもご紹介します。例えば、A社が土地(帳簿価額1,000万円)をB社に1,500万円で譲渡し、代金はまだ受け取っていない場合の仕訳例は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 15,000,000 | 土地 | 10,000,000 |
固定資産売却益 | 5,000,000 |
土地などを売却した場合には固定資産売却益も記載しますが、「売却価額が帳簿価額を上回る場合は、「固定資産売却益」を貸方に記入します。
一方で、売却価額が帳簿価額を下回る場合は、「固定資産売却損」を借方に記入します。
ちなみに、帳簿価額とは、会計上で記録された資産や負債の金額のことで、固定資産売却益(損)とは、土地や建物、車両運搬具などの固定資産を売却したときに生じる利益(または損失)のことです。
② 土地や不動産を貸付けしたときの仕訳
本業の営業活動以外で自社の敷地や不動産を他者に貸し付けている場合は、未回収の金額を未収入金として計上します。
例えば、A社は自社の不動産をB社に貸し付けており、毎月の賃料が10万円とします。しかし、先月の賃料をまだ受け取っていない場合の仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 100,000 | 受取賃貸料 | 100,000 |
このとき、受取賃貸料は、売上(営業収益)ではなく「営業外収益」に該当するので注意しましょう。
自社の商品ではない社用車を売却したときの仕訳
社用車が不要になり、売却したときの仕訳例を紹介します。
例えば、400万円(取得価額400万円、減価償却累計額300万円)で購入した社用車が不要になり、55万円(うち消費税5万円)で売却したとします。代金をまだ受け取っていない場合の仕訳例は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 550,000 | 車両運搬具 | 4,000,000 |
減価償却累計額 | 3,000,000 | 仮受消費税等 | 50,000 |
固定資産売却損 | 500,000 |
「取得価額400万円-減価償却累計額300万円=100万円」の車両が、55万円で売却されたため、固定資産売却損は45万円となります。
また、課税事業者の場合、売却する自動車には消費税が発生します。固定資産売却損として消費税の5万円を計上するため、「45万円+5万円=50万円」が固定資産売却損の合計となります。
未収入金・売掛金・未収収益の違い
「未収入金」「売掛金」「未収収益」の3つは、貸借対照表上の資産の部にある勘定科目で、いずれも将来的に取引で発生した代金を受け取る債権を示すものです。これらは、混同されやすいので注意が必要です。
主には、資産の分類や取引の性質、相手勘定などにおいて違いがあります。
3種類の特徴
一般的な株式会社で行われる処理を前提に、「未収入金」「売掛金」「未収収益」それぞれの特徴を解説します。
どんな勘定科目か | 特徴 | |
---|---|---|
未収入金 | 本業の営業活動以外の継続的ではない取引による金銭の債権を計上する勘定科目 | ・機械など固定資産の売却や保有する有価証券の譲渡など |
売掛金 | 基本的に本業の営業活動取引による金銭の債権を計上する勘定科目 |
・製品や商品などの物の売買や役務(サービス)の提供で発生した、未収債権 ・原則として、1年以内に現金での回収が見込まれる |
未収収益 | 本業の営業活動以外の継続的な取引による金銭の債権を計上する勘定科目 | ・金銭の貸付けで発生する利息や、不動産の貸付けで発生する家賃など |
未収入金と売掛金、未収入金の違いには大きく2つのポイントがあります。
1)本業の営業活動の取引から発生しているかいないか
2)本業の営業取引以外から発生していて、かつ継続的な取引かどうか
本業の営業活動以外の取引は「未収入金」「未収収益」、さらに継続的な取引によるものは「未収収益」に該当し、本業の営業取引から発生するものは「売掛金」に該当します。
貸借対照表上での違い
未収入金・売掛金・未収収益は、貸借対照表では同じ「資産の部」に該当します。しかし、それぞれ種類が異なります。
「資産の部」は、流動資産・固定資産・繰延資産の3種類ありますが、一般的に未収入金は「流動資産・固定資産」、売掛金は「流動資産」、未収収益は「流動資産」に分類されます。
なお、流動資産とは、通常1年以内に現金化や費用化ができる資産を指し、固定資産は、通常の営業取引で発生した金銭ではなく、1年以上継続的に保有される資産を指します。
貸借対照表上の分類 | 表示の仕方 | |
---|---|---|
未収入金 |
流動資産 固定資産 |
・回収予定が直前の決算日から1年以内の場合は、流動資産に表示する ・回収が1年を超える場合は固定資産(投資その他の資産)に表示し、「長期未収入金」となる |
売掛金 | 流動資産 | ・一般的に回収が1年を超える長期滞留債権があっても流動資産に表示する |
未収収益 | 流動資産 |
・未収入金またはその他流動資産で表示する ・基本的に通常1年以内に現金化できる資産が該当する |
損益計算書での「相手勘定科目」が違う
仕訳には借方と貸方それぞれに勘定科目がありますが、借方に対して貸方の勘定科目、貸方に対して借方の勘定科目を 「相手勘定科目」と呼びます。例えば、「現金」から見た相手勘定科目は「売上」で、「売上」から見た相手勘定科目は「現金」です。
この相手勘定についてもそれぞれ違いがあります。損益計算書上では、企業が本業とする営業取引以外で発生する未収入金は、営業外損益に該当します。
相手勘定科目 | 注記 | |
---|---|---|
未収入金 |
資産+営業外損益 (売却損益) |
・売却する資産には、有価証券などの「流動資産」と、設備などの「固定資産」の2種類がある ・資産を売却するときは、売却益または売却損失が発生する |
売掛金 | 売上高 | ・企業が本業とする営業取引の損益科目 |
未収収益 | 営業外損益 | ・未収入金の相手勘定に該当する「資産」は未収収益には該当しない |
「未収入金」4つの注意点
これまで未収入金についていくつかの注意点をお伝えしましたが、さらに会計処理を間違うとトラブルになる可能性がある4つの注意点を解説します。
1)会計処理は発生主義で
決算時の会計処理において、現金主義は資産を売却する際などに伴う売却損益や売却先への債権残高など、将来や過去における費用が把握できないという問題点があります。
トラブルを防ぐためにも、会計処理は「発生主義」で行いましょう。
2)回収不能な未収入金の処理
回収不能な未収入金については、貸倒損失で計上することが認められる場合があります。
貸倒損失とは、一般的に債権の回収が困難な場合に、回収できない分を「損失」として処理することです。貸倒損失で計上することで現金の支出を伴わない費用となります。
貸倒は、下記の3つに区分されます。
- 法律上の貸倒:金銭債権が切り捨てられた場合
- 事実上の貸倒:金銭債権の全額が回収不能となった場合
- 形式上の貸倒:一定期間取引停止後弁済がない場合等
法律上、貸倒は一般的に損金として処理されますが、事実上の貸倒や形式上の貸倒は、損金と認められない場合もあるので注意が必要です。
3)回収予定経過残高や取引先の信用状態の確認
決算時には、回収予定日を過ぎた未収入金がないか必ず残高を確認し、管理を怠らないようにしましょう。取引先の資金繰りの事情による遅延などの場合は、遅延の原因や回収の可否など信用状態を確認します。場合によっては、貸倒引当金の計上を検討する必要もあります。
4)未収収益を未収入金で管理する経過勘定の処理
4つ目は、未収収益を未収入金として管理している場合です。未収収益は「経過勘定」の一つです。当期に収益や費用が発生しているのに、実際の金銭の収入や支出が次期以降になる場合と、逆に当期に収入や支出があるが、次期以降に計上する場合です。
そのため、決算では特殊な会計処理を行います。具体的には、「見越し」と「繰り延べ」の2つの処理方法です。
「見越し」は、当期中に実際の収入や支出がなくても「発生主義」の観点で、当期の収益や費用として会計処理します。一方で「繰り延べ」は、当期中に収入や支出があっても次期以降の収益や費用として会計処理します。
損益については「見越し」や「繰り延べ」の処理をしますが、未収収益の場合は「収益の見越し」として処理します。
未収入金を正しく理解してトラブルを防ごう
「売掛金」や「未収収益」と間違えやすい「未収入金」ですが、金融機関の融資を受ける際に重要視される科目のため、違いとその見極め方をよく理解して仕訳しましょう。また、回収予定日を過ぎた未収入金がないか、決算期には必ず確認しましょう。
<この記事のポイント>
- 未収入金とは、本業の営業活動以外の継続的ではない取引で発生した債権
- 未収入金・売掛金・未収収益は取引の性質や相手勘定、資産の種類が違う