小口現金はもういらない? 仕訳方法や管理を楽にする方法を解説
キャッシュレス化が進む中、企業における「小口現金」は本当に必要なのでしょうか。小口現金とは、交通費や文房具、備品の購入費など、日々発生する少額の出費を精算するために会社の各部署で管理する現金のことです。実は、小口現金は全ての会社に設けられているわけではなく、必須のものではありません。
今回は、現在小口現金を導入している企業や、経理初心者の方のために、小口現金の仕組みや管理ポイント、仕訳の方法を解説します。また、小口現金の必要性を考えて、今後の業務を効率化させるためにはどうしたらよいのかも解説します。
小口現金とは
小口現金とは、交通費や文房具、切手、備品の購入費、慶弔費など、日々発生する少額の出費を精算するために会社の各部署で管理する現金のことです。仕訳の勘定科目では「小口現金」仕訳の勘定科目では「小口現金」となり、貸借対照表では「資産」に該当します。
小口現金を経理部で管理する方法もありますが、部署が多い場合は、日々の少額の経費を精算するために、会社の経理部で処理するのは手間も掛かり負担が大きくなるでしょう。
そこで、各部署に「小口現金係」を配置して、小口現金の精算を管理する運用などが考えられます。
管理する方法は会社によっても異なりますが、一般的には、小口現金の担当になった人は、毎日業務終了後に支出の記録、残高を確認し、手元の現金を数えて管理します。
小口現金と現金の違い
小口現金と現金の違いは、管理の方法と仕訳の方法です。一般的に現金は、金庫や銀行に預けられているまとまったお金です。一方で、小口現金は、日々発生する少額の費用を支払うためのお金です。
また、帳簿については、原則として現金は「現金出納帳」に、小口現金は「小口現金出納帳」を使用して管理します。
貸借対照表上では、小口現金と現金は最終的に金額が合算され、流動資産の部の「現金及び預金等」という科目で仕訳されるため混同されがちです。しかし、小口現金と現金は日々の仕訳の方法も異なるので、区別して考えなければなりません。
小口現金出納帳とは
小口現金出納帳とは、小口現金の支払い内容や補給を記帳する帳簿のことです。帳簿の中でも、補助記入帳にあたります。紙の帳簿に記録したり、表計算ソフトを使って記録する必要があります。
一般的に、複数の部署で小口現金出納帳がそれぞれ管理されている場合は、一定期間ごとに経理部に提出します。
小口現金出納帳には下記などの情報を入れて記載します。
- 受入金額:小口で持っている金額
- 日付:金銭がやり取りされた日付
- 摘要:何に小口現金を使ったか
- 支払金額:交通費・雑費など勘定科目ごとに支払った金額
- 支払内訳:交通費・雑費などの勘定科目
- 残高:手元に残っている小口現金
小口現金出納帳の使用は任意
小口現金出納帳は、手書きでもパソコンで管理する方法でも構いませんが、あくまで使用するかは任意です。従業員数の少ない会社や小口現金を使う部署が少なく使用頻度が低い場合は、経理担当者1つの窓口で管理する方法でもよいでしょう。
一方で、少額の経費精算が多い場合などは、各部署で小口現金出納帳で管理した方が効率的です。経理担当者が少額の精算が発生する度に仕訳すると、業務が煩雑になり負担が大きくなるためです。
小口現金の管理ポイント
小口現金の精算や管理のポイントを解説します。
小口現金の金額設定に決まりはない
小口現金は、一件あたりの金額の上限など法的に定められた決まりがなく、会社によって上限額が設定されている場合もあれば、上限額が設定されていない場合もあります。仮に、上限額が設定されていても企業によって金額は異なります。
小口現金は、慶弔費など突然発生する費用の精算もありますが、あまりにも大きい金額に設定すると、盗難などのリスクが高まります。そのため、小口現金の金額は適正金額に設定することが望ましいです。
毎日残高と記帳内容が合っているか確認する
小口現金係は、精算が発生する度に小口現金出納帳に記入します。そして、1日の業務が終わると、小口現金の金額と小口現金出納帳の残高を確認します。
小口現金出納帳の残高を確認する際のポイントは、「支払金額と手元残高の合計」と「受入金額の合計」が必ず一致することです。一致しない場合は、どこかにミスが生じていると判断できます。
支払内訳の記録は重要
小口現金で日々発生する精算の内容は、小口現金出納帳などを使って記載します。何に小口現金を使ったか支払内訳や金額などを記録し、小口現金係と経理担当者が別の場合は月末に経理担当者に報告します。
小口現金係が支払内訳などを記録していないと、経理処理をするときに混乱する可能性があるため、漏れのないよう正しく記載しましょう。
小口現金の補給方法は2つ
小口現金には「定額資金前渡制度」と「随時補給制度」の2つの補給方法があります。
定額資金前渡制度は、一定期間ごとに使った金額の分だけを小口現金に補給するものです。期間は、1週間に1回や1カ月に1回など企業によって異なります。
一方で、随時補給制度は、必要に応じて随時小口現金を補給するものです。どちらの方法を選んでも構いません。
小口現金の仕訳方法
小口現金の仕訳について、該当する費用の勘定科目や具体的な例を挙げて解説します。
1)小口現金で使う勘定科目を知る
小口現金は貸借対照表では資産に該当し、勘定科目は「小口現金」で表示します。貸借対照表上では、小口現金が増加したら借方、小口現金が減少したら貸方に仕訳します。
小口現金から支払う費用の主な勘定科目は5つです。
① 消耗品費:備品、文房具代、コピー用紙代、封筒代など
② 旅費交通費:電車代、バス代、タクシー代など
③ 水道光熱費:電気代、水道代、ガス代など
④ 通信費:インターネット代、切手代、携帯代、電話代など
⑤ 雑費:新聞代など
会社によって小口現金で支払われる費用の勘定科目の名称は異なるので、注意が必要です。規則をよく確認してから仕訳しましょう。
では、次に小口現金の出入金の記帳の仕方や仕訳例を紹介します。
2)小口現金を前渡しする仕訳
小口現金の仕訳は、まず最初に経理が小口現金を小口現金係に渡すときに行われます。小口現金を当座預金から引き出して20万円用意した場合の前渡しの仕訳は、下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
小口現金 | 200,000円 | 当座預金 | 200,000円 |
資産である「小口現金」は増加したので借方、資産である「当座預金」が減少したので貸方に仕訳します。
3)小口現金の入出金を記録する
各部署で小口現金係が小口現金を使って費用を精算した場合は、その都度入出金を小口現金出納帳に記帳します。小口現金係は何の費用に使ったか記録しましょう。
小口現金出納帳のオリジナル画像
4)小口現金係からの報告を仕訳する
月に一度、会社の規定で定められた日に各部署の小口現金係は小口現金を精算し、その金額を経理に報告します。報告を受けた経理担当者は、例えば下記のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
消耗品費 | 10,000円 | 小口現金 | 80,000円 |
旅費交通費 | 30,000円 | ||
水道光熱費 | 25,000円 | ||
通信費 | 5,000円 | ||
雑費 | 10,000円 |
この場合は、費用である「水道光熱費・消耗品費・雑費など」は増加したので借方、資産である「小口現金」は減少したので貸方に仕訳します。
5)小口現金を補給する仕訳
小口現金を補給するときの仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
小口現金 | 80,000円 | 当座預金 | 80,000円 |
前渡し時と同様、資産である「小口現金」は増加したので借方、資産である「当座預金」が減少したので貸方に仕訳します。
小口現金は本当に必要か?
小口現金の設置は、必ずしも企業にとって必須ではありません。企業における小口現金は本当に必要なのかどうか見てみましょう。
小口現金で精算する例と精算しない例
小口現金で精算する会社と精算しない会社において、小口現金係や経理担当者の業務には以下のような違いがあります。
▼小口現金で精算する会社で発生する業務の例
(従業員の交通費を精算する場合)
小口現金の入っている手提げ金庫からお金を出して渡す
↓
小口現金出納帳に記帳する
↓
終業時、小口現金係は金庫内の現金が出納帳と合っているかを確認する
(文房具を購入したいという従業員がいる場合)
小口現金の入っている手提げ金庫からお金を渡す
↓
お釣りと領収書を受け取り金庫に保管する
↓
小口現金出納帳に記帳する
↓
終業時、小口現金係は金庫内の現金が出納帳と合っているかを確認する
小口現金で精算する会社は、これらの業務が都度発生します。
▼小口現金で精算しない会社で発生する業務の例
(従業員の交通費を精算する場合)
従業員は立て替えた交通費を経費申請書に記入する(領収書は保管)
↓
月に一度まとめて経理に経費申請する
↓
経理は経費申請を集計して給料と一緒に振り込む
(文房具を購入したいという従業員がいる場合)
定期的にネットで注文し、法人用のクレジットカードを使って決済する
上記の業務の違いから、小口現金を導入している場合は、 従業員の立て替えの負担を減らせるメリットがあります。一方で、小口現金を管理する担当者の業務負担の増加や盗難の危険性などデメリットも生じます。具体的には、小口現金出納帳に日々の支払いを記帳して、小口現金出納帳の残高と一致するかを確認する業務が発生します。
また、小口現金をこれから廃止しようと検討している企業の場合は、経費精算システムの導入やネット決済ができる仕組み作りなど、小口現金を廃止するための段取りが必要になります。しかし、廃止すれば都度小口現金を精算する業務等がなくなるため、業務負担の軽減につながります。
企業にとってどちらが効率的か考えて、小口現金の有無を検討しましょう。
小口現金を廃止する方法
小口現金を廃止するには、現金は全て銀行等に預けてキャッシュレス化してしまうことです。小口現金を廃止する方法を具体的に解説します。
クレジットカードを活用する
会社決済型の法人クレジットカードを従業員に持たせて従業員の立て替えをなくすことで、小口現金の精算の必要性がなくなり業務の簡素化が実現します。
たまに必要な郵送代や収入印紙代が発生するときは、預金口座から引き出して買ったり、クレジットカードで決済したりして処理しましょう。
このとき注意しないといけないのは、従業員による不正利用です。不正利用されたときに生じるリスクを考えて使用上限額を設定しましょう。
経費精算システムを導入する
経費精算システムを導入すると事務作業を大幅に軽減できます。
なぜなら、サービスにもよりますが、交通費・出張費・交際費などの全ての経費において、申請・承認・精算から取引先への支払いまで、全て経費精算システムで自動的に管理できるからです。
例えば、交通費は乗換案内サービスや交通系ICカード、クレジットカードと連携することで交通費を自動で入力・申請できます。
備品購入などで発行された領収書をスマートフォンのアプリで読み取ってアップロードするだけで、自動で入力・申請してくれるサービスもあります。申請されたデータを承認・精算まで処理する機能もあるため、事務作業の軽減とともに、人為的なミスも軽減できます。
立て替えた経費の精算は月に一度にする
精算の回数を削減できれば、業務効率化を図れます。一方で、従業員が経費の立て替えをしている場合は精算されるまでの期間が長くなってしまうため、従業員に負担が掛かります。
精算は月末という規則を決める、給与の支払いと同時に振り込むなど、一定の時期を定めることを推奨します。
また、小口現金を廃止すると、従業員は立て替えた分を振り込みで受け取ることになりますが、給与と経費の振り込みを同時にすることで、振込手数料などのコストも削減できるメリットが生まれます。
直接取引を口座振替に変更する
会社に訪問して集金する取引業者に対しては、支払いの方法を口座振替に切り替えられるか相談しましょう。毎月の支払いを現金で管理するときに生じるリスクやコストを考えて効率の良い口座振替を選びましょう。
一部、仮払金を導入する
従業員が出張や高額の立て替えが必要な場合は、仮払金を支給する方法もあります。仮払金とは、従業員に対して前払いされるまとまったお金のことです。
例えば、従業員が長期出張する場合、仮払いすれば従業員が立て替える負担はなくなります。
ただし、仮払金は小口現金と同様に、現金での支払いとなります。そのため、余りや不足分の精算が必要な点は心得ておきましょう。
小口現金を廃止すると業務効率化につながる
小口現金を採用している企業は、担当者の業務負担や盗難リスクなどデメリットを抱えている可能性があります。もちろんメリットもありますが、小口現金を廃止すれば業務の効率化が図れます。
キャッシュレス化を実現するためにも、クレジットカードでの購入や、立て替え時の精算を月に一度と規定するなど、小口現金をやめるという選択肢も考えてみましょう。経費精算システムを導入すれば、より担当者の業務負担を軽減できるでしょう。ぜひ検討してみてください。
<この記事のポイント>
- 小口現金とは少額の現金を各部署で管理して経費精算するための勘定科目
- 小口現金出納に記帳する手間や盗難の危険性などデメリットがある
- 小口現金はあくまでも任意なので廃止できる