年末調整も頼める? 経理代行の業務とメリット・デメリットを解説

年末調整も頼める? 経理代行の業務とメリット・デメリットを解説

経理業務のアウトソーシングサービスである「経理代行」。経理業務は専門知識が求められる上、業務自体が煩雑です。人材育成にも時間が掛かります。外部委託できれば効率化やコスト削減につながりますが、「どこまで依頼できるか」は気になるものです。また、依頼するにあたり、注意すべき点もあります。メリット・デメリットも含め、専門家が解説します。

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税理士・税務ライター 鈴木まゆ子様

【この記事の執筆者】
鈴木まゆ子

税理士・税務ライター

2000年中央大学法学部法律学科卒業。(株)ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て、2012年税理士登録。税金の正しい知識を広めるべく、WEBを中心に多数の記事執筆・税務監修を行う。分かりやすい解説に定評がある。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。
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経理代行とは? 記帳代行や税理士との違いを確認

経理代行とは、経理業務を会社の代わりに行うアウトソーシングサービスのことです。記帳代行や税理士業務と一見似ていますが、実は異なります。

記帳代行との違い

記帳代行は、日々の取引を依頼主に代わって会計ソフトに入力する作業です。一方、経理代行は、記帳代行だけでなく、給与計算や請求書発行も含めた経理全般を代理で行う業務となります。

税理士との違い

経理代行では、日々の記帳や給与計算を行いますが、年末調整や決算、税務申告までは行えません。これらは税理士の独占業務となります。そのため、税理士が記帳から税務申告まで請け負うこともあります。

経理代行で依頼できる業務

経理代行では、主に次のような業務を依頼できます。

記帳代行

記帳とは、日々の取引で生じた売上や仕入、経費の支払いに関する情報を、領収書や請求書から会計ソフトに仕訳として入力していく作業のことです。この記帳作業で仕訳帳と総勘定元帳といった帳簿を作成します。また、記帳で入力された内容は、後の決算や税務申告の基礎となります。

記帳の対象は、水道光熱費や電話代の引き落とし、備品の購入など日常的な支払いも含みます。そのため、作業量が膨大になりがちです。また、基本的には簿記3級の知識がないと正しく記帳できません。

請求・支払管理

請求・支払管理とは、商品の販売や仕入・経費の支払いに関する一連の業務を管理することです。請求管理には、見積書や請求書などの作成や顧客、入金状況の管理支払管理には、届いた請求書の整理や支払期限、支払いそのものの管理があります。こういったお金の出入りを管理しないと、資金繰りが行き詰まる恐れがあります。

決算・年末調整など

代行会社によっては、会社の決算や年末調整、給与計算なども請け負うところがあります。ただし、先ほど軽く触れた通り、年末調整や決算といった業務を代理で行えるのは税理士だけです。また、給与計算も手取り額の計算ではなく「租税債務の確定」ならば税理士、賃金台帳の作成」ならば社会保険労務士の独占業務となります。

こういった業務を経理代行会社に依頼することはできません。実際には、提携先の税理士やや税理士法人、社会保険労務士や社会保険労務士法人との直接契約となります。

経理代行のメリット

経理代行には、次の3つのメリットがあります。

コストを削減できる

経理業務は、一つひとつが煩雑です。また、記帳や年末調整、給与計算などは、専門知識が求められます。慣れない社員に一から知識を身に付けさせ、正しく行わせようとすると時間も費用も掛かります。しかし、一連の作業を外部のプロに依頼すれば、こういったコストを抑えられます。

業務の効率化を図れる

経理代行を依頼すれば、業務を効率化できます。記帳業務や給与計算、請求や支払いの管理といった面倒な事務作業から解放されれば、その分、生産性の高い業務に時間を充てられるのです。結果、会社の収益性を高めることができる可能性があります。

ミスを減らせる

経理業務の大半は、簿記や税務、労務に関する専門知識が必要です。正確に行わなければ、後の決算や税務申告、税金や社会保険料の納付額にも影響します。経理代行というプロに依頼すれば、ミスがほとんどありません。そのため、加算税や延滞税、延滞金といった余計な支出を抑えることができます。

経理代行のデメリット

経理代行には、デメリットもあります。次の3つです。

経理人材が育たない、自社の状況をすぐに把握できない

1つ目が、社内の経理人材が育たないという点です。経理代行に委託すると、日々の記帳業務や他の経理に関する作業が社内から消えます。作業がなくなれば、経理の分かる人材が育ちません。また、代行会社によっては、各種帳票の作成に時間が掛かります。そのため、特定の経費の推移や試算表の中身を把握したくても、すぐには分からないかもしれません。

取引量の多さでは割高になる場合も

2つ目が、割高と感じる点です。経理代行会社のウェブサイトでは、格安の報酬が提示されていたりしますが、これは少ない作業量が前提です。作業量が多ければ、その分、報酬も増えます。小売業や飲食業など、日常の取引量が多く、多数の従業員を雇っているところは、思ったよりも負担が大きくなるかもしれません。

外部委託が難しい業務がある

3つ目は、全て丸投げできない点です。既にお伝えした通り、経理業務の中には、特定の士業でなければできないものもあります。

決算や税務申告、年末調整の代理は、税理士でなければできません。賃金台帳の作成や各種社会保険の手続きを受託できるのは、社会保険労務士だけです。また、販売・請求管理にしても、不払いなどで示談交渉が必要なものは、弁護士でなければ本人の代わりに行えないとされています。こういった業務は、各士業と契約し、それぞれに直接依頼しなくてはなりません。

さらに、代行会社が請け負える作業にも専門知識が必要です。記帳なら、仕訳の一つひとつに税務判断が必要。手取り額の計算として行う給与計算も、源泉徴収税額や社会保険料そのものは正しくなくてはなりません。状況によっては、経理代行会社ではなく、税理士や社会保険労務士に全て頼んだ方がいいこともあります。

このように、​経理代行にはさまざまなメリットやデメリットがあります。長期的に見て、コストを抑えられるかは取引量の多さや依頼する会社によっても変わってきます。効率をとるか、人材育成をとるかなど、企業の方向性によって総体的に判断するとよいでしょう。

その上で、経理代行を依頼する場合のポイントを次章で紹介します。

経理代行を依頼するときの確認ポイント

経理代行を外部に依頼するときは、次の3つを確認しましょう。

代行会社の管理者・スタッフ

経理代行会社の管理者やスタッフの質を意識しましょう。専門知識や経験があることはもちろん重要です。また、管理者が税理士や社会保険労務士といった専門家だと、より安心して任せられます。

報酬体系

料金のしくみは、丁寧に確認しましょう。格安料金には、たいてい「100仕訳が上限」「給与計算は10人まで」といった条件が付いています。自社の状況と料金体系を照らし合わせ、実際に依頼したらどれくらい掛かるのかを計算しておきましょう。

業務の責任範囲・違法性の確認

経理代行会社によっては、違法な状態で業務を請け負おうとするところもあります。繰り返しになりますが、税務申告や年末調整は税理士賃金台帳の作成や社会保険関連の手続きは社会保険労務士の独占業務です。それ以外の人が代理で行うことはできません。

士業でなければ代理できない業務も発注したいのなら、経理代行会社に提携している士業がいるかどうかを確認しましょう。単に提携しているだけでなく、依頼する場合はその士業との直接契約となるかどうかも聞く必要があります。経営主体が税理士や社会保険労務士となっている経理代行会社だと、より安心です。

経理代行する際は、依頼先や発注する業務を考慮して判断しよう

経理代行会社に依頼すれば、従業員が本業に集中することができ、時間的・経済的コストを抑えられる可能性があります。税理士や社会保険労務士の在籍する経理代行会社なら、税務や労務を任せることができるはずです。業務を効率化し、生産性を高めれば、会社はスピーディーに成長できるでしょう。

反面、「社内に経理人材が育たない」といったデメリットがあります。また、年末調整や社会保険の手続きは、専門の士業しか代行できません。こういった業務を「安いから」という理由で代行会社に安易に依頼することは避けた方がよいでしょう。
依頼するときは、会社の取引量や今後の方針を考え、法令を遵守する形で発注する業務を決めるようにしましょう。

<この記事のポイント>

  • 経理代行を使うとコスト削減と効率化が期待できる
  • 記帳だけでなく年末調整・決算まで依頼できることも
  • 代行会社によっては業務に制約があるので注意

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