証憑とは何か?種類や保存期間、電子化のメリットを確認
証憑(しょうひょう)の確認や保管は、経理処理では重要なプロセスの一つです。会計処理を正しく行う以外にも理由があるからです。また、証憑と言うと領収書や請求書をイメージしがちですが、実際は、この他の書類も証憑に当たります。
今回は、法律で決められた保存期間や保存しなかったときの罰則、また紙の証憑を電子化することによるメリットも含めて解説します。
証憑とは
証憑とは、取引の事実を証明するための書類です。企業にとって重要な書類ですが、なぜ必要なのでしょうか。証憑の意味や、似ている他の書類との違いも交えて解説します。
証憑の意味
証憑とは、平たく言うと「証拠」。「証票」と漢字が似ていますが、意味が異なります。証票は「ある事を証明するための札や書き付け」。税理士である事実を証明する「税理士証票」などがあります。
証憑が証明する対象は、企業の社外取引だけでなく、社内の従業員との雇用関係などの書類も対象です。売買の入出金だけでなく、取引の事実を証明する契約書なども含みます。
証憑と帳票の違い
企業の取引に関わる書類には、他に「帳票」があります。一見、証憑と似ていますが、中身は次のように違います。
- 帳票・・・会計に関する帳簿や伝票などの総称
- 証憑・・・取引の事実を客観的に証明する書類
帳票とは、企業が取引に当たって作成する帳簿や伝票といった書類の総称で、入金伝票や出金伝票、現金出納帳、売掛金台帳などが該当します。
一方で、証憑は取引を行ったことを証明する書類のため、過去にどのような取引が行われたかも分かります。入金伝票や出金伝票などは証憑にも該当するため、「証憑書類」と呼ぶときは、帳票書類の一部を含むことがあります。
大きな違いは「誰が作成したか」です。帳票は、自社で作成する記録です。一方、証憑は客観性が重要です。自社だけでなく取引相手が作成したものも含みます。
証憑は保存しなければならない
証憑は、保管する企業側が一定期間、保存しなくてはなりません。保存期間は、法律ごとに定められています(詳細は後述)。
なぜ保存を義務付けられているのでしょうか。それは、取引事実を証明したり、正しく会計処理が行われているかどうかを照合して確認したりするためです。
証憑が確認されるのは、主に取引相手と取引の事実や内容について争いになったときや、税務調査が行われたときです。証憑を保管しておかないと、事実の確認ができず争いや調査が長引いたりします。無用なトラブルを防ぐためにも、保存は必要です。
証憑の種類
証憑には、具体的にどんなものがあるのでしょうか。ここで確認していきましょう。
売上関連
1つ目は、売上の事実や内容を証明するものです。自社発行の請求書や相手から発行された領収書、取引にまつわる契約書などがあります。
仕入れ・経費関連
2つ目は、仕入れや支払経費の事実や内容を証明するものです。相手から発行された請求書や納品書、自社発行の領収書やレシート、クレジットカードの明細などがこれに当たります。
従業員に支払う給与など
3つ目は、自社で働く役員や従業員の勤務実態や支給額に関するものです。給与支払明細書や源泉徴収票、雇用契約書や賃金台帳が該当します。
通帳や賃貸借契約書など
4つ目は、上記3つ以外の取引に関するものです。預金通帳や事業所の賃貸借契約書、融資の返済予定表などが当てはまります。
証憑の保存期間は?
証憑の保存期間は法律ごとに定められています。また、守らないとペナルティーが生じる恐れもあります。
税法での保存期間
法人税法では、原則7年間保存が義務付けられています。ただし、青色繰越欠損金や災害損失欠損金を繰り越す場合は、10年間保存しなくてはなりません。
所得税法では次のように定めが分かれています。
- 青色申告・・・領収書や通帳など現預金取引に関連するものは7年間
(前々年分所得が300万円以下の場合は5年間)、それ以外の証憑は5年間 - 青色申告以外・・・すべて5年間
消費税法は、売上に関するものも仕入れに関するものも、7年間を保存期間と定めています。
この他、給与の源泉徴収や年末調整に関する証憑は7年間保管しなくてはなりません。
会社法での保存期間
会社法では、「株式会社は会計帳簿とともに事業に関する重要な資料を10年間保管しなくてはならない」としています。
なお、これ以外の法律でも、証憑の保存期間を定めています。法律ごとに異なるので、注意が必要です。
保存期間を守らなかった場合は?
保存期間を守らないと、青色申告の取消リスクが生じます。仮装や隠ぺいを疑われるからです。また、消費税の仕入税額控除が受けられなくなります。会社法の規定により、100万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。
証憑を電子化して効率アップを図ろう
証憑はたいていの場合、紙で保存します。しかし、紙の証憑には管理の手間やコストが掛かります。そこで検討したいのが「証憑の電子化」です。
電子化に慣れていない企業にとっては、心理的に抵抗があるかもしれません。しかし、電子化には紙保存にはない利点があります。同時に現在、証憑の電子化を進めやすい環境が整っています。
電子帳簿保存法の改正で証憑は電子化しやすくなった
証憑の電子化とは、紙で受け取った証憑をスキャナで読み込むほか、メールやオンラインデータで受領した証憑をそのまま保存することをいいます。
従来、証憑は紙で保存するのが原則でした。電子化して保存するには、事前に税務署の細かい確認を取らなければならず、ハードルが高かったのです。
しかし、2021年度税制改正での電子帳簿保存法の改正により、2022年1月以降、事前に税務署の承認を得なくても、条件を守れば「電磁的記録」で保存できることとなりました。
なお、紙の証憑を電子化するかどうかは企業の自由となりますが、最初からデータで受け取った証憑は、そのまま電子保存しなくてはなりません。2022年現在、2年間の猶予期間が設けられていますが、2024年1月以降は、データを破棄して印刷した紙だけを保存すると、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
電子化するメリット
証憑の電子化には、次のようなメリットがあります。
1つ目は、紛失や滅失のリスクの減少です。紙の証憑は、無くしたり火事などで消えたりする恐れがあります。しかし、電子化しバックアップを適切にとることで、こういったリスクを低減することができます。
2つ目は、コストの削減です。紙での保存は、印刷代や保管スペースの確保、ファイリングなどに手間やお金が掛かります。電子化すれば、こういったコストを省くことができます。
3つ目は、検索性の向上です。紙の証憑は、探すのに時間が掛かります。しかし、電子化して保存したデータやシステムに登録されたデータなら、必要な情報が探しやすくなります。
4つ目は、リモートワークへの対応です。紙の証憑は、先ほど述べた通り、紛失や滅失のリスクがあります。経理部門の従業員に持ち帰らせるのは、ハードルが高いのです。しかし電子化しておけば、オンラインで情報を共有できるため、自宅でも経理作業を行うことができます。
電子化するならシステムツールを入れる方法も!
証憑の電子化にはメリットがありますが、準備が大変です。特にスキャナ保存は、税務署の事前確認はいらなくなったものの、タイムスタンプ保存など細かい条件を守る必要があります。企業が独力で、税法を遵守するレベルで証憑の電子化を進めるのは難しいかもしれません。
しかし、システムツールを導入すれば、細かい条件を守った状態で証憑を電子化することができます。システム会社が改正電子帳簿保存法を研究しながら開発した証憑管理サービスを使えば、法律を守りながら業務の効率化を図ることができます。
証憑の正しい保管はトラブル防止につながる
証憑とは、取引が成立したことを立証するための書類です。証憑を適正に保管すれば、トラブルを未然に防ぐことができます。会計記帳が正しくなるだけではありません。取引先から求められ、取引事実について照会が必要になったときや税務調査が入った際に、争いや疑いに発展しにくくなります。
また、証憑には法律で定められた保存期間があります。守らないとペナルティーが生じる恐れもあるため、証憑はきちんと整理し、いつでも確認できるように保管しておきましょう。
<この記事のポイント>
- 証憑は、企業の取引の事実を証明する書類のことである
- 法律で定められた保存期間に注意が必要である
- 証憑を電子化すると業務の効率化につながる