AI-OCRとは? OCRとの違いやメリットを活用事例も交えて解説
給与明細や経理処理などのペーパレス化を検討する企業が増える中、注目されているのが「AI-OCR」。自動運転技術やスマホの機能などあらゆる分野で使われている、AI(人工知能)はよく耳にするでしょう。
では、AI-OCRは何か。今回は、OCRとの違いや、AI-OCRがもたらすメリット、さらには実際に導入している企業の事例を紹介します。
AI-OCRとは
AI-OCRとは、手書きの書類や帳票、領収書などの項目を読み取り、データ化する従来のOCRに、AIのアルゴリズムを利用してできた高精度なOCR処理のこと。手作業で行っていた伝票入力作業を効率化できるシステムです。
AI-OCRは、AIの深層学習(Deep
Learning)を活用していることから、OCRと比較すると文字認識精度やレイアウト解析(認識範囲の特定)精度の向上を図ることができ、汎用性を高めています。
また、AI-OCRは、RPA(Robotic Process
Automation)ツールとの親和性が高いことも一つの特長です。RPAとは、従来人間が行っていたデータ入力などのパソコンで行う手作業の業務を自動化する技術です。AI-OCRと連携することで、紙資料を取り扱う企業でも業務改善に役立てることができます。
AI-OCRとOCRの違い
OCRとAI-OCRの具体的な違いについて解説します。OCRは、日本で使われ始めたのは1960年代ですが、実はOCRを使用したシステムは1950年代から存在し、長く活用されてきた技術です。しかし、文字認識精度について下記のような問題点がありました。
- 日本語は文字の種類(ひらがな・カタカナ・漢字)が多いことから誤認識が多々発生
- OCRのルールに沿わない手書き文字は読み取れない
- 文字配列が異なる非定型の帳票は種類ごとに座標を設定しなければならない
例えば、請求処理の自動化をしたい場合、OCRでは紙の請求書のデジタル化まではできても、その項目が何の部門や科目なのか、仕訳作業は人の手で行う必要があります。また、決まったフォーマットにしか対応しておらず、結局は人間が作業を行わざるを得ないことも多く、非効率であることがデメリットでした。
一方で、AI技術を活用したAI-OCRは、読み取った情報の項目の抽出が可能となり、文字の認識率の向上により、これらの課題を解決してくれます。さらに、RPAツールと連携すれば、デジタル化からデータ入力までを自動化することができます。
AI-OCRがもたらすメリット3つ
AI-OCRの具体的なメリットを3つご紹介します。
癖のある手書き文字にも対応
まず、AI-OCRの大きなメリットは、深層学習の活用により文字・画像認識精度が向上したことです。深層学習とは機械学習の一つで、人間が自然に行うタスクをパソコンに学習させ、その表現や学習能力を高める手法です。
例えば、スマートフォンに搭載されているAIアシスタントには、深層学習が活用されています。これは、人間の脳神経であるニューロンをモデルに作られたニューラルネットワークをベースに、AIが擬似的シミュレーションを行い、複雑な判断や分析を可能にしています。
それらの手法により、AI-OCRは、OCRでは精度向上が難しく読み取れなかった癖のある手書き文字、例えば「文字や行の接触」や「かすれ文字」、「罫線に掛かる文字」などの認識精度を向上させたのです。また、図柄や風景画像のうえに文字が置かれている場合でも、高精度に文字を認識できるようになりました。
どのフォーマットでも自動で対応できる
OCRの場合は、文字配列が異なる非定型の帳票は種類ごとに読み込む座標を設定する必要がありましたが、AI-OCRはこの課題を解決しています。
文字の読み取り位置を自動抽出したり、座標の設定が不要で帳票の文字の位置や項目を自動で認識したりと、さまざまなフォーマットに自動で対応可能です。
中には、従来のOCRで1時間掛かるテンプレート作成が、2〜3分で設定できるAI-OCRツールもあります。それぞれの得意分野があるので、自社に最適なAI-OCRを見極めることが大切です。
RPAと連携することでさらに作業効率UP
もう一つメリットとして挙げられるのは、手作業の業務を自動化してくれるRPAと連携可能であること。
AI-OCRで読み取ったデータを、RPAと連携させることで、自動的に会計システムなどに読み取り、入力することができます。その上、読み取った結果の文字や内容が正しいか精度も向上します。100%正確にというのは難しいですが、ほとんど人手を介すことなく正確な読み取りができます。
そのため、紙帳票からデータを抽出し、データ入力から集計、出力までの一連の業務を高精度に自動化してくれます。
AI-OCRにはどんな種類のツールがあるのか
AI-OCRのツールはさまざまな種類が出ていますが、特徴から見ると、「印字の読み取りに強い」「手書きの読み取りに強い」「印字・手書き両方に対応できる」の3つに分かれます。
印字の読み取りに強いAI-OCR
印字されている文字を正確に読み取る機能に強い、AI-OCRがあります。このタイプは、一度にたくさんの請求書や発注書を処理し、データ化する企業におすすめです。製品の中には、帳票のフォーマットが変わっても、記載された情報を自動的に抽出できるものもあります。
手書きの読み取りに強いAI-OCR
手書き文字の認識精度が高いAI-OCRもあります。深層学習を活用し、独自開発のシステムで、ひらがなやカタカナ、漢字など似通っている手書き文字を正確に認識する製品も出ています。
印字・手書き両方に対応できるAI-OCR
印字と手書きの両方を読み取れる機能がバランスよく組み込まれたAI-OCRは、あらゆる書類をデジタルデータ化する企業におすすめです。手書きの文字から写真で撮った帳票まで、あらゆる書類を高精度に正確に読み取り、業務効率化を図れるツールもあります。
AI-OCRツールを導入した企業や団体の活用事例2つ
AI-OCRを導入した企業や団体の活用事例を2つ紹介します。
タクシーチケットの集計を自動化した、タクシー会社の事例
大手タクシー会社は、AI-OCRツールを導入し、タクシーチケットの集計を自動化することで大幅な業務効率化を実現しました。
タクシーチケットを使えば、乗客は料金をその場で支払う必要がありません。乗客が精算時に、指定のタクシーチケットに必要事項を手書きで記入して乗務員に渡すと、会社の部課別に請求書が発行され、口座自動振替で支払うことが可能です。
経理処理が簡単であることから、タクシーの支払いをキャッシュレスで行う人のうちタクシーチケットの利用者は2割と高い割合を占めています。一方で、タクシーチケットの利用に伴い、各営業所や管理部で以下のような手作業が発生していました。
<導入前>
- タクシーチケットの合計金額と枚数が合っているか確認
- 券種ごとに仕分ける
- 得意先ごとに並べ替えて請求内容の確認作業
- 営業所の方で得意先のチケットナンバー、コードや金額、経路などを全て手入力
2019年5月にAI-OCRを導入し、タクシーチケットの記入内容のデータ化が可能になってからは、営業所ではチケット裏面のQRコードをスキャナーで読み取り金額を入力するだけになったことで、下記のような結果が報告されています。
<導入後>
- 各営業所で1カ月平均39時間程かけていた入力業務の作業時間が削減
- 残業時間が1カ月平均50時間程削減
- 作業の精度が向上した
給与明細のペーパーレス化を実施した、都の事例
東京都では、給与明細のクラウドサービスの導入により、知事部局などの職員約3万人の給与明細のペーパーレス化を実施しています。
以下、3つの「レス」を中心とする都庁BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の取り組みの一つで、事務作業工数、紙の使用量、郵送コストの大幅な削減を実現しました。
① はんこレス(中間処理レス)
② ペーパーレス
③ キャッシュレス
クラウドサービスの導入後は、下記の2つの効果が報告されています。
- 給与明細をペーパーレス化し、インターネット経由で配信することで、これまで給与明細の手渡しに掛かっていた事務作業工数を大幅に削減できた
- 休職中の職員や都庁以外の拠点に勤務する職員に給与明細を届けるのが遅れてしまうことがあったが、給与明細をリアルタイムで配信可能になり、紙の使用量や郵送費用の大幅な削減を実現
AI-OCRの技術で、給与明細をデータ化できたことにより、ペーパーレスが実現し作業効率が向上しました。
AI-OCRツールを導入して、働き方の見直しを
従来のOCRから飛躍的に進化したAI-OCRツール。精度が向上したことで業務効率化に大きな成果をもたらしています。また、RPAと連携することで大幅な業務効率化を実現してくれます。
現在さまざま種類のAI-OCRツールが出ています。先に紹介した成功事例をもとに、どのような書類を扱うのか、取引先との連携も考えて検討してください。
自社に適切なAI-OCRツールを導入すれば、業務効率化が高められる他、ゆくゆくは企業の成長にもつながるでしょう。
<この記事のポイント>
- AI-OCRは、OCRに人工知能であるAIが組み合わさることで精度が向上し、手作業で行っていた伝票入力作業を効率化できる
- AI-OCRを導入した企業や団体の活用事例では、残業時間が1カ月平均50時間程削減したという例も