インボイス制度とは? 2023年の導入に向けて、概要や必要な準備を解説
「インボイス制度が始まったら、フリーランスや個人事業主は大変だ…」そんな声を聞いたことはありませんか。2023年10月1日より導入されるインボイス制度は、買い手(事業者)から求められた場合、適用税率・消費税額などの要件を満たしたインボイス(適格請求書)を発行・保存することを指し、軽減税率で複雑になった消費税の算出を正確に行うことを目的としています。
ただし、インボイス制度が始まると、事業者によっては受注減などのデメリットが発生する可能性も。今回は、制度の概要や起こり得る影響、必要な準備などについて詳しく解説します。
インボイス制度とは?
インボイス制度とは何か。仕入税額控除との関係、導入された理由などを見ていきましょう。
適用税率などの要件を満たした請求書を発行・保存すること
インボイス制度とは、所定の要件を満たした請求書や納品書、領収書、レシートを発行・保存することです。この請求書などは、インボイスまたは適格請求書と呼ばれ、制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
インボイスに記載しなければならない項目は、以下の8つです。
- ① 請求書発行事業者の氏名または名称
- ② 取引年月日
- ③ 取引の内容(軽減対象税率の対象品目である旨)
- ④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きor税込み)
- ⑤ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
- ⑥ 適格請求書発行事業者の登録番号
- ⑦適用税率
- ⑧消費税額等(端数処理は1つのインボイスあたり、税率ごとに1回ずつ)
現行の区分記載請求書には①~⑤までの項目がすでに記載されているため、インボイス制度では⑥~⑧の3項目が追加されることになります。
インボイスがないと仕入税額控除を受けられなくなる
インボイス制度の導入後は、「仕入税額控除」を受けるためにはインボイスの発行・保存が必須となります。仕入税額控除とは、仕入れにかかった消費税を差し引いて納税するための仕組みです。
例えば、スーパーで100円のキャベツが売られているとしましょう。このキャベツはスーパーが50円で仕入れたものです。お客さんはこのキャベツを買う際に8円の消費税を支払いますが、仕入れの際にスーパーも4円の消費税を払っています。
消費税は最終消費者が負担し、事業者は受け取った消費税と支払った消費税の差額分を納税するので、この場合、スーパーが納税するときは8円から仕入れ時に払った4円を差し引きます。これが、仕入税額控除と呼ばれる仕組みです。現在は、帳簿と請求書を7年間保存することを要件に仕入税額控除が適用されています。なお、支払いが税込30,000円未満の場合は、帳簿の保存のみで構いません。
ところがインボイス制度が始まると、インボイスを発行・保存しない場合は仕入税額控除が受けられなくなります。例示したキャベツのケースだと、スーパーはお客さんから預かった8円をそのまま納付しなければなりません。
インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者のみ
インボイスは、どんな事業者でも発行できるわけではありません。インボイスを発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られます。
適格請求書発行事業者の登録を受けるには、「課税事業者」でなければいけません。課税事業者とは、消費税の納付義務がある事業者のことで、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合が対象となります。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除され、消費税の申告を行う必要がない「免税事業者」といいます。「免税事業者」は、「課税事業者」となることを選択することができます。
免税事業者が課税事業者となった場合、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出して登録を済ませた事業者が、適格請求書発行事業者と認められます。
なお、適格請求書発行事業者が、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となった場合であっても免税事業者にはならず、消費税及び地方消費税の申告義務が生じるので、すみやかに各種手続きをしましょう。
インボイス制度はいつから始まる?
インボイス制度は、2023年10月1日に始まります。適格請求書発行事業者の登録申請書は、2021年10月1日より提出可能です。インボイス制度の導入日に間に合わせるためには、原則として2023年3月31日までに申請書の提出が必要です。登録申請は、e-Taxを利用することもできます。
インボイス制度が導入された理由
インボイス制度の目的は、軽減税率により複雑化した消費税の算出を正確に行い、把握することにあります。軽減税率は、酒類・外食を除く飲食料品と週2回以上発行される新聞などの生活必需品に適用されるものです。例えば、お弁当を販売する場合、食材の仕入れに掛かる税率は8%ですが、容器や箸の仕入れに対しては10%となります。
インボイス制度では商品ごとに税率・消費税額を記載する必要があるため、計算ミスを減らすことが可能です。軽減税率の対象商品を10%で計上し、不当に利益を得るといった不正行為も防げます。
インボイス制度導入の影響は?
インボイス制度が導入されるとどのような影響があるのかを、課税事業者・免税事業者それぞれのケースで確認しておきましょう。
【課税事業者の場合】システムや取引先の見直しが必要
インボイスを発行するためには、適格請求書発行事業者の登録以外にもやるべきことがあります。現在使用している会計ソフトや請求書ソフトがインボイス発行に対応しているか、事前に確認しておきましょう。クラウド型のサービスなら、随時制度変更に対応しているので安心です。
また、仕入れ先が免税事業者だとインボイスの発行ができないので、その事業者との取引はいずれ仕入税額控除の対象外となってしまいます。そういった取引先には課税事業者になってもらうか、場合によっては取引を見直す必要があるでしょう。
なお免税事業者からの仕入税額控除は、インボイス制度の導入と同時に完全廃止されるのではなく、段階的に廃止されることになりました。2023年10月1日から2026年9月30日までは80%控除、その後2029年9月30日までは50%控除で、完全廃止されるのは2029年10月1日です。
【免税事業者の場合】売上が減る可能性がある
多くのフリーランス・個人事業主を含む免税事業者は、間接的にインボイス制度の影響を受け、取引や売上が減る可能性があります。課税事業者からすれば仕入税額控除ができなくなるため、免税事業者との取引を避ける恐れがあるからです。
免税事業者にとっては、これまで請求先から支払ってもらっていた消費税は、納付義務がないため利益となっていましたが、取引が減ればこうした利益も失われます。
課税事業者になるという方法もありますが、そうなると当然消費税の納税義務が発生します。さまざまなリスクを見極め、インボイス制度に対してどのような対応を取るべきかよく考えておきましょう。
インボイス制度と現行制度「区分記載請求書等保存方式」の違い
現行制度からインボイス制度への変更点をまとめました。
請求書への記載内容
現行の請求書に関するルールは「区分記載請求書等保存方式」と呼ばれ、2019年10月1日に導入されました。区分記載請求書等保存方式は軽減税率導入と同時に始まっており、インボイス制度導入までの経過措置です。
区分記載請求書等保存方式とインボイス制度では、請求書への記載内容が異なります。記載しなければならない項目は「適用税率などの要件を満たした請求書を発行・保存すること」でご紹介した通りで、インボイス制度においては登録番号・適用税率・税率ごとの消費税額が追加されました。
仕入税額控除の適用範囲
区分記載請求書等保存方式では、基本的には帳簿と請求書を7年間保存するだけで仕入税額控除が受けられました。
インボイス制度の導入後、取引先が仕入税額控除を受けるためには、税務署に登録して適格請求書発行事業者とならなければなりません。適格請求書発行事業者として登録できるのは課税事業者に限られるため、免税事業者は、課税事業者となり取引先に仕入税額控除の恩恵を与えるか、免税事業者のままで消費税を免除されるかの選択を迫られることになります。
インボイス制度に対応するために必要な準備
税務署で行う手続きについて、流れを確認します。
1.適格請求書発行事業者になるには
適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出しなければなりません。登録されると、税務署から登録番号が通知されるので、その番号をインボイスに記載してください。登録番号は、インターネットを通じて確認することも可能です。
2.課税事業者になるには
免税事業者が適格請求書発行事業者となる場合、併せて課税事業者になる必要があります。適格請求書発行事業者の登録申請書に加えて、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しましょう。ただし登録日によっては経過措置により、消費税課税事業者選択届出書の提出が免除されます。詳しくは、国税庁の資料(P4)をご確認ください。
よくある質問
インボイス制度について、よくある3つの質問にお答えします。
Q1.適格請求書発行事業者の登録は、税務署に行かないとできませんか。
<回答>
適格請求書発行事業者の登録申請書は、e-Taxでも提出できます。e-Taxで提出した場合、登録通知を電子データで受領します。
Q2.適格請求書発行事業者の登録申請書は、どこで入手できますか。
<回答>
国税庁のホームページからPDFファイルをダウンロードできます。
Q3.インボイスに消費税額を記載する際、1円未満の端数はどのように処理すればいいですか。
端数処理の方法は任意となっており、切り上げ・切り捨て、四捨五入などどの方法でも構いません。1枚のインボイスにつき、税率ごとに1回の端数処理を行ってください。商品ごとの端数処理は認められないため、注意が必要です。
請求書を扱う事業者なら、インボイス制度への対策は必須
インボイス制度は、消費税を正確に把握するために必要な仕組みです。ただし、フリーランス・個人事業主に多い免税事業者は、業種によっては売上減少などの影響を受けることもあります。一方で課税事業者も、インボイス発行に対応したソフトを使っているかなどの対応をしなければなりません。
いずれにせよ、2023年10月1日の導入開始までに、請求書を扱うどの事業者も何らかの対策を迫られるので、今からインボイス制度の内容を理解し、しっかり準備を進めていきましょう。
<この記事のポイント>
- インボイス制度は、消費税額を正確に把握するための新しい請求書などのルール
- 仕入税額控除を受けるためには、インボイスの発行が必須
- 免税事業者はインボイスを発行できないので、企業からの受注減少の可能性あり