細谷功(ほそや・いさお) ビジネスコンサルタント・著述家
                            株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇄抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)等があり、それぞれの本の概要は、細谷氏のホームページで一覧できる。

AI化の時代に必要とされる人材とは? ビジネスコンサルタント細谷氏に聞く

細谷功(ほそや・いさお) ビジネスコンサルタント・著述家 株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇄抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)等があり、それぞれの本の概要は、細谷氏のホームページで一覧できる。

AIが不得意なことにシフトしよう

まず、AI時代に社員個人としてできることについて聞きました。特にこのサイトでフォーカスしているのは、バックオフィスと呼ばれる経理や総務部門です。こうした部署や部門は正確さが求められる一方、定型化できる作業が多いためAIに置き換えやすいといわれます。

日本、アメリカ、ドイツ、イギリスでのアンケート調査において、有職者にAI導入によって自動化してほしいと思う業務について尋ねた調査結果(平成30年版 情報通信白書から引用)

総務省の「平成30年版 情報通信白書」によると、日本、アメリカ、ドイツ、イギリスでのアンケート調査で、有職者にAI導入によって自動化してほしいと思う業務について尋ねたところ、各国とも定型的な一般事務(例:伝票入力、請求書等の定型文書作成)、定型的な会計事務(例:経費申請のチェック、計算)、簡単な手作業の生産工程(例:単純加工、単純組立)を挙げる割合が高い傾向にありました。

――今後、AI・自動化ツールの普及によって、会社がそれぞれの従業員に求めるスキル・能力も変わってくることが考えられます。細谷さんが考える、これからの人材に必要なスキル・能力は何でしょうか?

「AIにもいろいろありますが、AIが不得意なことに人間がシフトしていく必要がありますね。『与えられた問題を速く正確に解く』のはAIが得意です。となれば、問題そのものを考えることが人間の役割といえるでしょう。例えば、お客さんから『コストダウンをこれこれこのようにやってください』など、まず問題が与えられて、変数が与えられて、データも与えられる。そこから導き出した結果がルールにのっとっているかチェックする、となると、これはもうAIにやらせるべき問題です」(細谷氏)

AIが得意なことvs.不得意なこと

「つまり、人間としては、例えお客さんが何も言ってくれなくても、問題そのものを考える必要が出てきます。問題とは、お客さんがこうしてくれといったことではなく、トラブルやクレームといった一見ネガティブなものに含まれていることもあります。定型的な問題はベースにあって、もちろん解決しなければいけないけれども、その割合は下げていく。お客さんが言っていないことをこちらから出していく、ということですね」(同)

細谷氏は、コロナ禍のように「何をやっていいかわからないとき」は逆にチャンスだと言います。なぜならば、安定しているときは問題を考えて持っていっても、「いやうちで言ったことをちゃんとやってくれればいいから」と言われかねないからです。

次に細谷氏は、バックオフィスに勤める人たちが敬遠しがちな考え方について紹介しました。

曖昧なことを嫌がっていないか

「バックオフィスは明確な問題が得意な人が多いですよね。言い換えれば、曖昧な問題がくると不愉快に思う人が多いのではないでしょうか。『適当に』とか『いい感じにやって』なんて指示されるとむしろ怒る。『ちゃんとお客さんから前提条件を聞いてやってこないとできません!』とね」(細谷氏)

「バックオフィスは、曖昧でルール外のことを楽しむといったマインドセットがないかもしれません。コアなところになるべくフォーカスしたいかもしれませんが、あえて逆をいってみましょう。例えばコールセンターだと、マニュアルにないような定型パターン以外の『その他』の質問、訳の分からないことを聞かれるほどモチベーションがあがるとかね。仕事と関係ないことを言われた時ほど燃える、そんな姿勢も大切です。営業の方だとそういう話はよくわかると思います。信頼されている営業ほど、会社以外のことを相談され始めますからね。『ちょっとパソコン買いたいんだけどどれがいいかな』とか『知り合いに良い人がいないか探してる』とか。できる営業、お客さんから信頼される営業ほど、関係ないものから巡り巡って自分の仕事が増えていくものです」

つまりは、これまでバックオフィスでは重要視されてこなかったような「曖昧さ」が、コロナ禍を経た先の見えない時代に必要になる、と細谷氏は主張します。

得意な人の頭を押さえつけない

――お話をうかがっていると、ハードスキルとしてあいまいな課題を要件定義して課題化する力、ソフトスキルとして「わからないものこそ面白い」というマインドセットを身に着ける必要がありそうです。どのようにしたら身に付きますか。

「例えば経理部門に非定型の話が来ると言っても、10回が10回非定型になるということはすぐにはありえないでしょう。要は10回のうちに2~3回そういう曖昧な話が来た時にどう拾うか、という姿勢が大切です」

「バックオフィス全員を、非定型が得意な人材にする必要はありません。経理だけどそういうことが好き、雑談ばっかりで評価が低い、そういう人材はどの企業にも1割はいるのではないでしょうか。今の仕事だと冷や飯を食っている、でも自由な発想はできる、という人をまず生かしてあげるといいですね」

「こういう話をするとよくやりがちなのが、全社を挙げてそういう人を育て始めてしまうんです。例えば、少し極端な例を出しますが、『経理部に、(一見仕事と全く関係のない)トマトの苗を買える場所について問い合わせが来た』『すなわち、これからはトマトが売れる経理マンが必要だ』とかそういう話をやってしまう。ところが、定型業務なら全員教育は成り立ちますが、非定型は機能しないんですよ。

特に日本の製造業的な考え方でいくと、平均値を大切にしてばらつきをなくすために出る杭を打つ。下を引き上げることで平均以下を平均に持っていく。マイナスをゼロにする、ゼロを色々な方法で引き上げる――そういう発想になりがちなのです。マイナスを平均値にするには全員同じことやる。それはそれでよいのですが、一方でその方法はばらつきを少なくするがゆえに真ん中より上は勝手に出てくる人たちの頭を押さえつけることにつながりかねないのです」

「1~2割の非定型が得意な人を見つけることです。これまで、10人のうち1人の力が活かせていればよかったところ、そういう人材2~3人が力を発揮できればそれだけで2~3倍になるということですから」

育成よりは評価制度を工夫

細谷 功 減点主義から加点主義へ 「育成よりは評価やものの見方を工夫してみましょう」

「トマトを売る経理マン」という興味深い例えを用いて解説した細谷氏。では、企業はそのような「出る杭」の人材をどう評価したらよいのでしょうか。

「育成よりは評価制度を工夫してみましょう。KPIをただ変えるだけではなく、まずは考え方を普及させて、最終的には評価制度を変える。日本企業、特に歴史のある会社は減点主義のところが多くて、それだとフォーマットが決まっていますよね。埋まらないところがマイナスになってしまう。そうではなくて、形がないものが非定型業務なのですから、最初からフォーマットをなくしたらどうでしょう。加点主義にして、(先の極端な例でいえば)トマトが売れたら加点してあげる、ということですね」

――会社のなかでも経理・法務・人事などで、バックオフィス部門の既存業務だけでなく、経営戦略にも深くコミットすることが求められる時代になりました。こうした変化についてはどのように捉えていますか?

「これも一元論ではなく、全員が戦略を立てられる必要はありません。戦略的に内部のオペレーションを考えることは必要ですが、全機能をバックオフィスで入れるべきなのか、につては議論が分かれるところでしょう。機能として10のうち1割必要だったのが2割3割に増えればまずは充分ではないでしょうか。イノベーションかオペレーションか、バランスを取るということです」

「よく経営者や管理者と話していると『うちの社員は言われたことしかできない』と嘆く方がいます。しかしそれは今の組織がそうさせているということは忘れてはいけません。社員に対して『提案せよ』というと、どういうことが起きるかというと、半分は経営者のニーズに沿ったいい案を出してくるけど、もう半分は経営者が言ってほしくなかったり、やってほしくなかったりすることを提案してくるものです。そういうものをバサッと切り捨てていると、社員は萎縮してしまいます。まずはどんどん提案することを重視。しょうもないのがいっぱい出てきたとしても、まず『面白いの出したな』と褒める。面白いのが10個あるけれど、これこれの視点でこの5つにしよう、と言わないとダメです」

――モチベーションも大切ということですね。逆に、そういった人材を育てるのは不可能でしょうか。

「育てるのではなく『育つ』という自動詞にもっていきましょう。『出る杭』なのですから育つのを邪魔しない。とがった人を解放して、その人が実績を作れれば、自然にフォロワーができるでしょう。だんだんそれを仕組化するということです」

「DXの時代はますます変化のチャンスが増えてきます。コロナ禍では、一部の飲食などを除けば、半分以上仕事そのものが変わるわけではありません。ただし、形式上デジタルに移行する、まさにDXです。95%オンライン化している業態も珍しくありませんが、中身やコンテンツなど本質的なものは変わっていません。こうした中で、一部の人なり人材の活躍の場を作ることで、次なるビジネス形態の実験をしてみるのは非常に有意義です。会社の中に実験場みたいなところを作っていくのです。製造業的な発想だとこれまでは少なかったかもしれませんが、ITでいうところのプロトタイプを作って実験する思想でしょうか。経営者は、とにかくばらつきをなくす、という思考そのものを、変えていく必要があるでしょう」

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