eシールとは何か? メリットや電子署名・タイムスタンプとの違いも解説
eシールの導入を政府が検討することを2020年に発表しました。そこでこの記事では、eシールとは一体何なのか、eシールの定義や仕組み、業務にもたらすメリットなどを詳しく解説します。
また、電子署名やタイムスタンプとの違いも解説しているので参考にしてください。
eシールの概要
eシールとは何なのか、法的な定義や仕組みなど、基本的な概要について解説します。
eシールとは
eシール(electronic seal)とは、請求書や領収書などの電子文書を発行した際に、データの発信元となる組織の正当性を保証するための仕組みです。
(引用元: eシールに係る指針(案)|総務省 )
「eシール」はEUにおける呼称で、日本ではeシールの定義はまだなく、eシールに関する公的な仕組みもありません。この点について、行政のIT・デジタル化を推進するデジタル・ガバメント閣僚会議の資料では、下記のように記述されています。
"e シールとは、電子文書等の発行元の組織を示す目的で行われる暗号化等の措置であり、当該措置が行われて以降当該文書等が改ざんされていないことを確認する仕組みであって、発行元が個人に限らず組織となることもある。我が国においては、e シールに関する公的な仕組みは現状存在していないものの、一部の企業において、組織名の電子証明書として eシールの導入が進んでいる。"
(引用元:
データ戦略タスクフォース 第一次とりまとめ(P29)|デジタル・ガバメント閣僚会議決定
)
さらに総務省資料では、下記のように補足説明されています。
"ただし、e シールは、あくまでも電子文書等が発行元の組織等から間違いなく発行された
ことを示すためのものであり、当該電子文書等の内容が正しい内容であるかどうか、また、
当該電子文書等の発行元の組織等が正当な組織等であるかどうかを保証するものではな
いことに留意が必要である。"
引用元:
e シールに係る指針(案)|総務省
)
つまり、eシールはあくまでも電子文書の発行元を証明するものであり、電子文書の内容の正当さや、組織自体の正当さを保証するものではないということです。
EUではeIDAS規則により定義されている
EUでは、加盟国内での便利で安全な電子取引を可能にすることを目的とした「eIDAS(イーアイダス)規則」が2014年に成立し、2016年に発行されました。
その規則の中で、eシールは下記の通り定義されています。
"(59)Electronic seals should serve as evidence that an electronic document was issued by a
legal person, ensuring certainty of the document’s origin and integrity.
(eシールは、電子文書が正当な法人によって発行された証拠として機能し、文書の出所と完全性の確実性を保証する。)
(65)In addition to authenticating the document issued by the legal person, electronic seals
can be used to authenticate any digital asset of the legal person, such as software code or
servers.
(正当な法人により発行された文書の認証に加え、eシールは、ソフトウェアコードやサーバーなどの法人のデジタル資産を認証するためにも使用できる。)
引用:
REGULATION (EU) No 910/2014 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
eIDAS規則における定義から、eシールは法人に対して発行されるものであり、その対象はソフトウェアやサーバーなどのデジタル資産にも及ぶことがわかります。
電子署名やタイムスタンプとの違い
eシールの他に、データの信頼性を確保する制度として電子署名やタイムスタンプがあります。それぞれの違いは、次表の通りです。
目的 | 付与者 | 役割 | |
---|---|---|---|
eシール | 発行元の証明 | 法人 | 発行した組織を証明する(電子版社印に相当) |
電子署名 | 個人の意思表示 | 本人 | 署名者が内容へ同意したことを示す |
タイムスタンプ | 存在証明 | 第三者機関 | 特定の時刻以降、データの変更や改ざんが行われていないことを証明する |
eシール | |
---|---|
目的 | 発行元の証明 |
付与者 | 法人 |
役割 | 発行した組織を証明する(電子版社印に相当) |
電子署名 | |
目的 | 個人の意思表示 |
付与者 | 本人 |
役割 | 署名者が内容へ同意したことを示す |
タイムスタンプ | |
目的 | 存在証明 |
付与者 | 第三者機関 |
役割 | 特定の時刻以降、データの変更や改ざんが行われていないことを証明する |
ちなみに、電子署名は電子署名法を基準に個人の意思表示を示すもので、タイムスタンプは総務省の「タイムビジネスに係る指針」を基準に定められています。タイムスタンプは、第三者機関である時刻認証局(TSA)により生成されます。ちなみに、TSAはTime Stamping Authorityの略称です。
日本ではeシールに法的な定義がないのに対し、電子署名とタイムスタンプはそれぞれ準拠する法律や指針がある点も大きく異なります。
eシール活用のメリット
(引用元: eシールに係る指針(案)|総務省 )
電子署名が「個人」に紐づく仕組みであるのに対し、eシールは「組織」に紐づく仕組みなので、担当者の人事異動などによって再発行する手続きが不要になります。そのため、再発行手続きに伴う業務負担や費用がまず軽減されるでしょう。
また、領収書や請求書などの電子文書を、迅速かつ大量に発行できることによる生産性の向上も期待されています。
総務省が掲げる「トラストサービス検討ワーキンググループ 最終取りまとめ(案)概要」によると、eシール・電子署名・タイムスタンプといったトラストサービスを活用することによって、下記の業務効率化効果が得られるとしています。
" • 経理系業務の場合、
大企業1社あたり、10.2万時間/月かかっている業務が、5.1万時間/月へ
小企業1社あたり、502時間/月かかっている業務が、151時間/月へ
• 間接業務(総務人事系、経理系の業種共通業務)全体では、
大企業1社あたり、22.6万時間/月が15.4万時間/月へ
小企業1社あたり、1116時間/月が608時間/月へ
削減されることが示された。"
引用:
「トラストサービス検討ワーキンググループ 最終取りまとめ(案)概要」
電子インボイスに活用することで業務効率化が期待される
2023年に施行されるインボイス制度の導入により、事業者側の業務負担が増えることが危惧されています。
そこで、業務負担の解決方法として、電子インボイスにeシールを活用することで下記のような業務効率化の効果が期待されています。
- 電子インボイスの真正性を確保できる
- 電子帳簿保存法の電子取引情報の保存に関する要件も満たせる
- 認証局で電子証明書の正当性が検証されてからメールなどで送られるため安全
真正性の証明と業務負担軽減のために必要不可欠
eシールは、あくまでも組織に紐付く発行元の真正性を証明するものです。今後、インボイス制度の導入によって、増える業務負担を軽減する目的と真正性確保のためにeシールの活用が必要不可欠になることが予測されます。ぜひ、参考にしてください。
<この記事のポイント>
- eシールは、電子文書を発行した際に発信元となる組織を保証する仕組みだが、日本では公的な定義がまだない
- eシールに公的な定義はないが、電子署名やタイムスタンプは法律や指針により定義付けられている違いあり
- 電子インボイスにeシールを活用することで業務効率化が期待できる