令和4年度(2022年)の税制改正大綱の内容は? 施行までのスケジュールも確認

令和4年度(2022年)の税制改正大綱の内容は? 施行までのスケジュールも確認

2021年12月に、令和4年度(2022年)の税制改正大綱がまとめられました。税制改正大綱は、税制改正法案の「たたき台」というべきもの。税制改正大綱を元に作成された法案を、国会で審議することになります。では、税制改正法案が実際に施行されるのはいつになるのでしょうか。
この記事では、税制改正のスケジュールや税制改正大綱の内容について紹介しています。企業に関係が深い税制改正に絞っていますので、経営者や経理担当の方はぜひ参考にしてください。

石動総合会計法務事務所代表 石動龍様

【この記事の監修者】
石動龍

石動総合会計法務事務所代表

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。ドラゴンラーメン(八戸市)店長、ワイン専門店 vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。2021年中の不動産業開業が目標。
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税制改正大綱とは?

税制改正大綱とは何かや、令和4年度の税制改正がいつ施行されるかを解説します。

税制改正大綱は、税制改正法案の「たたき台」

税制改正法案を国会で審議する前に、与党の税制調査会が中心となって税制改正の方針をまとめたものが税制改正大綱です。税制改正大綱の内容に沿って、国税に関する改正法案は財務省、地方税に関する改正法案は総務省が作成します。改正法案は国会に提出され、衆参両議院で審議されます。改正法案が可決されると、改正法に定められた日に施行されます。

令和4年度の税制改正は2022年4月に施行予定

税制改正大綱は例年12月中旬に発表され、その後1月に税制改正法案が国会へ提出されます。3月頃まで審議を行い、可決された場合は4月に施行される法令が多くあります。つまり、令和4年度の税制改正は2022年1月から審議され、改正法案が可決されれば2022年4月に施行されるというスケジュールが一般的です。

税制は、経済・社会の変化に合わせて常に見直される

税制は、経済や社会の変化に応じて常に見直す必要があります。令和4年度の税制改正では「賃上げの促進」「オープンイノベーションの促進」「カーボンニュートラルの実現」「景気回復」といったテーマを中心に、各種控除の見直し・特例措置の延長について審議を行う予定です。

税制改正の流れ

税制改正のスケジュールを時系列で確認しましょう。

1.税制改正への要望の提出(8月頃)
業界団体から来年度の税制改正に関する要望を各省庁に集め、財務省に提出します。

2.与党の税制調査会で議論(11~12月頃)
税制改正への要望を元に、税制改正の項目を決めます。

3.税制改正大綱の閣議決定(12月中旬頃)
発表された税制改正大綱に沿って、財務省・総務省が改正法案を作成します。

4.税制改正法案の提出・審議(1~3月頃)
衆議院の財務金融委員会もしくは参議院の財政金融委員会、または総務委員会で審議を行った後、本会議で審議されます。

5.税制改正法案の成立(3月頃)
ほとんどの場合、3月頃に可決・成立となります。

6.税制改正関連法の施行(4月頃)
成立した改正法案が施行されます。

「資産課税」に関する税制改正

「資産課税」に関する税制改正

税制改正大綱の中から、固定資産税や不動産取得税、印紙税をはじめとする資産課税に関しての税制改正をまとめました。

1.土地に係る固定資産税等の負担調整措置

土地に係る固定資産税等の負担調整措置について、令和4年度に限り、商業地等に係る課税標準額の上昇幅を評価額の2.5%(現行は5%)となります。また、土地に係る都市計画税の負担調整措置として、固定資産税の改正に伴って必要な改正が行われます。

2. 固定資産税・都市計画税の減額措置の延長・拡充

港湾運営会社が港湾脱炭素化推進事業(仮称)により、政府の補助を受けて取得した陸上電力供給設備に係る固定資産税について、課税標準を最初の3年間は価格の3分の2とする特例措置が2023年3月31日まで適用されます。

また、特定都市河川浸水被害対策法に規定する貯留機能保全区域の指定を受けた土地に係る固定資産税及び都市計画税について、課税標準を最初の3年間は価格に4分の3を参酌して3分の2以上6分の5以下の範囲内において、市町村の条例で定める割合を乗じて得た額とする特例措置が2025年3月31日まで適用されます。

他にも、購買施設または教養文化施設の用に供する土地等については、課税標準を最初の5年間は価格の4分の3(現行は3分の2)とするなど、さまざまな減額措置が拡充されます。

3.固定資産税・都市計画税の廃止・縮減等

特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律に規定する認定導入計画に基づき、電波法の規定によりローカル5G無線局に係る免許を受けた者が、新たに取得した一定の償却資産に係る固定資産税、法律の認定を受けた事業者が取得した一定のバイオ燃料製造設備に係る固定資産税等について、要件が引き下げられます。

また、下水道除害施設への固定資産税、一般ガス導管事業の用に供する一定の償却資産に対する固定資産税などについて、課税標準が引き上げられます。

そして、以下の課税標準の特例措置が廃止されます。

  • 首都直下地震緊急対策区域外で取得し、専ら同区域内のデータセンターのバックアップの事業で使われる、一定の償却資産に係る固定資産税
  • 立地誘導促進施設協定に基づき管理する一定の施設で使われる土地とその土地の償却資産に係る固定資産税及び都市計画税

4.登録免許税・不動産取得税・印紙税の軽減措置等の延長 

登録免許税・不動産取得税・印紙税に関して、さまざまな軽減措置が適用されます。主な項目を紹介します。

登録免許税

これまで2022年3月31日までとされていた、住宅用家屋、特定認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、特定増改築等がされた住宅用家屋の所有権の保存登記に対する登録免許税の税率の軽減措置が、2024年3月31日まで延長されます。

不動産取得税

医療機関が再編を行うために取得した不動産に係る不動産取得税について、不動産価格の2分の1に相当する額を価格から控除する課税標準の特例措置が、2024年3月31日まで延長されます。なお、これは地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律に規定する「認定再編計画」に基づく必要があります。

また、以下の不動産取得税等についても、課税標準の特例措置の適用期限が延長されます。

  • 中小企業等経営強化法に規定する「認定経営力向上計画」に従って行う事業の譲受けにより取得した、一定の不動産に係る不動産取得税
  • 移住等環境整備推進法人が同法に規定する「帰還・移住等環境整備事業計画」に基づき取得した、一定の土地に係る不動産取得税など

印紙税

不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置が、2024年3月31日まで延長されます。

5.登録免許税におけるキャッシュレス納付制度の創設

登記等を受ける際、クレジットカード等により、登録免許税を納付できるようになります。

6.新型コロナウイルスの影響による印紙税の非課税措置

新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止措置で影響を受けた事業者に対して、特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税措置の適用期限が、1年延長されます。

「法人課税」に関する税制改正

「法人課税」に関する税制改正

税制改正大綱の中から、いわゆる「賃上げ税制」など法人課税に関する税制改正をまとめました。

1.積極的な賃上げ等を促すための措置(大企業等向け)

給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度について、対象が新規雇用者から継続雇用者に拡大されます。

令和5年度末を期限として、継続雇用者給与等支給額の対前年度の増加割合が3%以上である場合には、雇用者給与等支給額の増加額の15%の税額控除を行います。 また、それと共に、継続雇用者給与等支給額の対前年度の増加割合が4%以上である場合には、税額控除率に10%、教育訓練費の対前年度の増加割合が20%以上である場合には、税額控除率に5%が加算されます。

大企業には規制強化として、継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が1%以上(2022年4月1日〜2023年3月31日までの間に開始する事業年度では0.5%以上)にならなければ、研究開発税制などの優遇が受けられなくなる措置も講じられます。

2.積極的な賃上げ等を促すための措置(中小企業向け)

雇用者給与等支給額の対前年度の増加割合が1.5%以上である場合に、雇用者給与等支給額の増加額の15%の税額控除を行うと共に、税額控除の上乗せ措置として、雇用者給与等支給額の対前年度の増加割合が2.5%以上である場合には、税額控除率に15%、教育訓練費の対前年度増加割合が10%以上である場合には、税額控除率に10%が加算されます。

また、中小企業における所得拡大促進税制について、適用期限が2024年3月31日まで延長されます。一定の要件を満たすときに適用できるとされている法人税の税額控除を、中小企業者等に係る法人住民税に適用することができます。

3.オープンイノベーション促進税制の拡充

特別新事業開拓事業者の要件において、出資の対象会社に、設立10年以上15年未満の売上高に占める研究開発費の割合が10%以上の赤字会社を追加するなどの見直しが行われます。また、特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の課税の特例について、適用期限が2024年3月31日まで延長されます。

4.5G導入促進税制の見直し

5G投資促進税制においては、特定基地局が開設計画に係る特定基地局に5G高度特定基地局を加えたり、事業供用時期に応じて税額控除率の変更が行われます。これは、地方でのネットワーク整備を加速する等の観点から行われます。税額控除率は次のとおりです。

  • 令和4年4月1日~令和5年3月31日 15% (9%)
  • 令和5年4月1日~令和6年3月31日 9% (5%)
  • 令和6年4月1日~令和7年3月31日 3%

※()は、条件不利地域以外の地域内で事業用の特定基地局の無線設備について

5.経済と環境の好循環の実現

環境と調和の取れた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(仮称)の制定に対応して、化学農薬・化学肥料に代替する生産資材を製造する設備に対し特別償却をできるようにするための税制が創設されます。

6.大法人に対する法人事業税所得割の軽減税率の見直し

付加価値割額、資本割額及び所得割額の合算額により法人事業税を課される法人、つまり資本金1億円超の大企業は、これまで法人事業税に掛かる標準税率が、年400万円以下の所得の場合0.4%、年400万円を超え年800万円以下の所得の場合は0.7%でした。しかし、これらの軽減税率は廃止され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から標準税率が1%になります。

7.ガス供給業に係る法人事業税の課税方式の見直し

導管部門の法的分離の対象となる法人等が行う事業(導管事業を除く)については収入割額、付加価値割額及び資本割額の合算額により課することとし、その他の法人が行う事業(導管事業を除く)については他の一般の事業と同様になります。

8.新たな沖縄振興に向けた措置

特定民間観光関連施設を取得した場合の法人税額の特別控除制度や、情報通信産業特別地区における認定法人の所得控除制度について、制度や適用施設の見直しを行います。沖縄の観光地形成促進地域において特定民間観光関連施設を取得した場合の法人税額の特別控除制度等について、適用期限を延長します。

「消費課税」に関する税制改正

「消費課税」に関する税制改正

税制改正大綱の中から「インボイス制度」とも呼ばれる適格請求書等保存方式など、消費課税に関する税制改正をまとめました。

1.適格請求書等保存方式に係る見直し

免税事業者が2023年10月1日〜2029年9月30日までの課税期間中に、適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、これまでは2023年10月1日の属する課税期間を除き、課税期間の中途から登録を受けることはできませんでした。しかし、改正後は免税事業者であっても、任意のタイミングで適格請求書発行事業者の登録を受けられるようになります。

上記の適用を受けると、改正後は登録日が2023年10月1日の属する課税期間中だった事業者を除いて、「その登録日の属する課税期間の翌課税期間からその登録日以後2年間」の課税期間については、事業者免税点制度が適用されず、その各課税期間中に免税事業者になることはできません。

また、仕入明細書等による仕入税額控除は、その課税仕入れが他の事業者が行う課税資産の譲渡等に該当する場合に限り行うことができます。なお、区分記載請求書の記載事項に係る電磁的記録の提供を受けた場合については、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置の適用が受けられます。

2.航空機燃料譲与税の税率の見直し

航空機燃料譲与税の譲与割合を、2022年4月1日〜2023年3月31日までの間、13分の4に引き下げます。

「納税環境整備」に関する税制改正

「納税環境整備」に関する税制改正

税制改正大綱の中から、税理士制度の見直しやeLTAX(エルタックス)の活用など納税環境整備に関する税制改正をまとめました。

1.税理士制度の見直し

税理士の業務の電子化等の推進、税務代理の範囲の明確化、税理士試験の受験資格要件の緩和等の見直しが行われます。

2.帳簿の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の整備

納税者が税金の申告漏れ等を行った際に課される過少申告加算税の額または無申告加算税の額に、最大10%に相当する金額が加算されます。

3.財産債務調書制度等の見直し

財産債務書の提出義務者や財産債務調書等の提出期限などの見直しが行われます。

4.地方税務手続のデジタル化

eLTAX(エルタックス)による申告・申請、電子納付の対象税目、電子納付に係る納付手段の拡大が行われます。

令和4年度の税制改正大綱の目玉は「賃上げ税制」

令和4年度の税制改正における企業に関係する部分で、最も注目されているのが、賃上げ促進のための税制です。賃上げを行った中小企業は、大幅な控除率の引き上げが行われる一方、業績の良い企業とそうでない企業との間で、従業員の賃金格差が拡大することも懸念されます。

なお、税制改正は本記事で紹介した以外にもさまざまな改正内容があります。詳細は財務省の「税制改正の概要」を参照の上、自社が適用対象となる控除などは早めに把握しておきましょう。

<この記事のポイント>

  • 税制改正大綱は税制改正法案の「たたき台」で、与党によってまとめられる
  • 税制改正法案は1月に提出され、4月施行を目指して審議される
  • 令和4年度の税制改正は、賃上げや地方拠点強化がポイント

※本記事は、2022年2月9日時点の内容です。

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