DX投資促進税制とは? 概要・要件・具体例などについて解説

DX投資促進税制とは? 概要・要件・具体例などについて解説

新型コロナウイルス対策でリモート環境を構築したいのに、売上が落ちているからなかなか資金を投資できない……。「デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制」は、そんな企業にぴったりの制度です。デジタル投資に対して、税額控除または特別償却が行われます。

そこで今回は、DX投資促進税制の概要・措置を受けるための要件などについて解説します。申請手続きの流れや、制度に関するよくある質問(FAQ)も紹介します。

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石動総合会計法務事務所代表 石動龍様

【この記事の監修者】
石動龍

石動総合会計法務事務所代表

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。ドラゴンラーメン(八戸市)店長、ワイン専門店 vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。2021年中の不動産業開業が目標。
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DX投資促進税制とは

DX投資促進税制の概要や、制度が創設された背景について説明します。

DX投資促進税制とは

DX投資促進税制とは、デジタルによる企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を支援するために、デジタル環境の構築に関する投資に対して税額控除または特別償却を行う措置のことです。優遇を受けるには、一定の要件を満たした上で、DX認定を受けてから事業適応計画を作成・申請する必要があります。

創設の背景

新型コロナウイルスの影響により、経済は深刻な落ち込みとなりました。一方で、この状況を構造変化のチャンスと捉え、経営戦略やデジタル戦略の一体化を進めるべきだという意見もあります。そのような背景から、経済産業省によってDX投資促進税制が創設されました。

「新たな日常」を目指すための施策としては、DX投資促進税制の他「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」も実施されます。カーボンニュートラル投資促進税制は、DX投資促進税制と共に、令和3年度の税制改正で規定された制度です。

DX投資促進税制の認定要件

DX投資促進税制の対象となるには、青色申告法人であり且つ、産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受ける必要があります。その上で、DX投資促進税制の適用を受けるために、「デジタル要件」と「企業変革要件」の両方を満たさなければなりません。

デジタル要件

対象となるデジタル投資は下記の3つです。

①データ連携
社外のデータまたは新たに取得するデータと、既存の内部データを連携させる必要があります。

②クラウド技術の活用
社外のクラウド技術を用いたITサービスや、自社のクラウド技術の活用を指します。

③情報処理推進機構が審査する「DX認定」の取得
経営ビジョン・ビジネスモデル、戦略などの6項目について、経済産業省令に定められた認定基準に適合しているかを審査します。

企業変革要件

対象となる取り組みは下記の3つです。

①生産性向上または売上上昇が見込まれること
ROA(総資産利益率)や売上高伸び率の上昇などがあります。

②前向きな取り組み
情報技術事業適応の内容が「計画期間内で商品1単位当たりの製造原価が8.8%以上削減される」などといった指標を満たしているかを審査します。

③全社の意思決定に基づくもの
取締役会の決議文書の添付などが必要です。

DX投資促進税制措置の内容

対象設備や控除の内容、適用期限などについて説明します。

対象資産

対象となる資産は、下記「ソフトウェア」、「繰延資産」、「有形固定資産」の3つです。

①ソフトウェア
取得・製作のどちらでも構いません。

②繰延資産
クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用を指します。なお、DXのために利用するソフトウェアの利用に掛かる費用で、繰延資産に該当するものとなります。

③有形固定資産
取得・製作する機械装置・器具備品を指し、①または②と連携して使用するものに限ります。

なお、中古設備や、試験研究・ソフトウェア業・情報処理サービス業・インターネット付随サービス業の事業に用いる資産及び国内にある事業に用いない資産は対象外となります。

税制措置の内容

ソフトウェア・繰延資産・有形固定資産について、以下のような措置が講じられます。

対象設備 税額控除 特別償却
・ソフトウェア
・繰延資産 ※1
・器具備品 ※2
・機械装置 ※2
3% 30%
5% ※3

(※1)クラウドシステムへの移行に係る初期費用をいう
(※2)ソフトウェアや繰延資産と連携して使用するものに限る
(※3)グループ外の他法人ともデータ連携・共有する場合

投資額上限 300億円(300億円を上回る投資は300億円まで)
投資額下限 国内の売上高0.1%以上
税額控除上限 「カーボンニュートラル投資促進税制」と合わせて当期法人税額の20%まで

特別償却限度額と税額控除限度額の計算規定

特別償却限度額は、下記の区分に応じて計算した金額となります。

1)対象資産の合計額が300億円以下の場合
特別償却限度額 = 情報技術事業適応設備の取得価額または事業適応繰延資産の額 × 30%

2)対象資産の合計額が300億円を超える場合
特別償却限度額 = 300億円 × {(情報技術事業適応設備の取得価額または事業適応繰延資産の額)/対象資産合計額} × 30%

税額控除限度額は、下記の区分に応じて計算した金額となります。

1)対象資産合計額が300億円以下の場合
税額控除限度額(調整前法人税額の20%を上限 ※1)= 情報技術事業適応設備の取得価額または事業適応繰延資産の額 × 3%(※2の場合、5%)

2)対象資産合計額が300億円を超える場合
税額控除限度額(調整前法人税額の20%を上限 ※1)= 300億円×{(情報技術事業適応設備の取得価額または事業適応繰延資産の額)/対象資産合計額}×3%(※2の場合、5%)

(※1)本税制およびカーボンニュートラル投資促進税制の法人税額の特別控除との合計で、調整前法人税額の20%相当額が上限
(※2)グループ外の他法人とデータ連携する場合

なお税制措置は、同一法人につき1回限り利用可能です。連結納税制度を採用している企業グループは、そのグループ単位で1回限りとなります。

適用期限

適用期限は、2021年8月2日〜2023年3月31日です。対象期間内に、事業適応計画の認定・課税の特例の確認後に取得・製作した対象設備などを使用する必要があります。

DX投資促進税制措置を適用した事例

国内外では、DXにより生産性向上や新規需要開拓を実現する事例があります。2例紹介します。

自動車メーカーの例

A社(自動車メーカー)では、製造現場でのデータ収集などを行い、柔軟に生産ラインを調整できるソフトウェアを使用し、サプライチェーンの変革を行いました。

スーパーマーケットの例

B社(スーパーマーケット)では、ロボット・AIを活用した大型自動物流倉庫パッケージを導入し、品揃えの増加や配送ルートの最適化、発送の24時間対応などを本格化しています。

DX投資促進税制の実務的な手続き

DX投資促進税制の手続きの流れは下記の通りです。

1)DX認定を受ける
まずは、情報処理推進機構(IPA)に申請を行い、DX認定を受ける必要があります。

2)事前相談・事業適応計画の作成
主務官庁に事前相談を行い、要件に合致するかなどについて確認した後、事業適応計画を作成します。

3)事業適応計画の申請
主務官庁に計画を申請します。

4)事業適応計画の認定
主務官庁から認定書・確認書が発行されます。

5)事業適応計画の実施
計画書に沿って、デジタル投資や取り組みを行います。

6)税務申告
申請書(認定計画)の写し、認定書の写し、確認書の写しが必要です。

7)事業適応計画の実施状況を報告
事業年度ごとに報告書を提出します。

手続きに掛かる期間

DX投資促進税制の手続きは、かなりの期間を要します。主務省庁への事前相談の開始から正式申請までにおおむね1〜2か月程度掛かります。その後、申請から認定まで1か月程度、ここから事業適応計画書に沿って実施します。

余裕をもってDX投資を実行したい場合は、事前相談から認定まで半年程度の期間を考えるとよいでしょう。

DX投資促進税制に関するQ&A

DX投資促進税制に関するよくある質問をまとめました。

Q1.対象となるソフトウェアには、どんなものが該当するのでしょうか。

ソフトウェアとは「電子計算機に対する指令であって1つの結果を得ることができるように組み合わされたもの」と定義されます。独立したアプリケーションソフトの他、機械装置やパソコンなどに組み込まれているもの(OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトなど)も、ソフトウェアの定義を満たしていれば対象です。

Q2.ソフトウェアの導入によるシステム構築に複数年掛かりそうです。期限を過ぎても措置を受けられますか。

措置の対象となるのは、2023年3月31日までに取得して事業の用に供した設備です。それ以後に取得・事業に供しても、措置の対象とはなりません

Q3.同一法人が事業適応計画を2つ作成し、それぞれDX投資促進税制措置の適用を受けた場合は、合計で600億円が上限となるのでしょうか。

本税制措置は組織的な意思決定に基づく企業変革を要件としており、同一法人が複数回申請することは想定していません。措置の適用は同一法人につき1回までとされていますが、計画変更に伴う課税の特例基準の適合確認は可能です。

DX投資促進税制の活用で、ウィズコロナ・ポストコロナ時代に備えよう

デジタル投資や企業変革のための一定の取り組みを行い、事業適応計画が認定されると、DX投資促進税制により税金の優遇が受けられます。デジタル環境を構築したくても、費用が掛かるからとちゅうちょしていた企業にはうれしい制度です。ぜひ、活用を検討してはいかがでしょうか。

対象期間は2023年3月31日までとなっており、それまでにソフトウェアなどを取得・使用する必要があります。DX認定や事業適応計画の作成・申請にはある程度の時間を要するため、なるべく早めの対応がおすすめです。

<この記事のポイント>

  • DX投資促進税制とは、デジタルによる企業変革を支援するための税額控除または特別償却を行う措置のこと
  • 対象となるデジタル投資に加えて、生産性向上や売上上昇などを目指す取り組みが必要
  • 特別償却30%、税額控除3%(グループ外の他法人とデータ連携する場合は5%)の措置が講じられる

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