減価償却の計算方法を解説! 定額法・定率法・資産ごとの事例も紹介
法人税法において、固定資産の減価償却は、損金に算入するための計算方法が定められています。なお、個人事業主の減価償却については、所得税法で定められています。
今回は、法人税法の規定に沿って、減価償却の基本的な仕組みや、定額法と定率法の違い、具体的な計算方法などをまとめて解説します。
減価償却とは?
減価償却とは、経年劣化や損耗によって時間の経過とともに価値が下がっていく固定資産に対して行う会計上の処理のことです。
対象となる資産には、法的な使用可能期間として「法定耐用年数」が定められています。減価償却を行う際は、その期間に応じて数年~数十年にわたり減価償却費を計上していくことで、税務上の損金とすることが認められています。
減価償却を行うメリットについて詳しくは後述しているので、そちらを参考にしてみてください。
減価償却をする前に理解しておきたい用語
減価償却費を計算する際に出てくる用語について、簡単に解説します。
「減価償却資産」と「減価償却費」
「減価償却資産」は、減価償却できる資産のことです。「減価償却費」とは、減価償却資産の金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分する際の勘定科目を示します。
「取得価額」
「取得価額」は、資産を取得する際に掛かった金額、費用のことです。原則として、運賃や設置手数料など資産を使用するために掛かった費用も含まれます。
「耐用年数」
「耐用年数」は、資産を使うことができるとされる期間のことです。資産の種類、構造、用途などにより法的に定められています。耐用年数に応じて算出した減価償却費が、税法上、損金に計上できる上限となります。
耐用年数は、ソフトウェアや商標権など無形固定資産にも定められています。ただし、有形固定資産であっても、土地など経年で価値が変わらないものは「非減価償却資産」とされ、耐用年数はありません。
また、耐用年数の詳細については以下の記事も参照ください。
「減価償却資産の耐用年数とは? 一覧と適用のポイント解説|バックオフィス進化論」
「減価償却累計額」
「減価償却累計額」は、これまで減価償却した費用の累計金額のことです。
「未償却残高」
「未償却残高」は、資産の取得価額から減価償却累計額を差し引いた残高のことです。
「残存価額」は、税制改正以前に使われていた考え方で、耐用年数経過後の資産の価値を取得価額の10%とするというものです。
2007年4月1日の税制改正以降に取得した資産については残存価額ではなく、「残存簿価」を使用します。
耐用年数経過後の資産は、残存簿価(備忘価額)として1円だけ残し、資産を破棄したり売却しない限り計上を続けます。
「改定償却率」
「改定償却率」は、改定取得価額に対しその償却費の額が、その後同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率のことです。
「償却保証額」
「償却保証額」は、資産の取得価額に当該資産の耐用年数に応じた保証率を乗じて計算した金額のことです。
「簿価」
「簿価」は、帳簿価額の略で、帳簿残高とも言われます。会計帳簿に記録された資産・負債の評価額のことです。
減価償却の計算方法は「定額法」と「定率法」の2種類
一般的に使用される減価償却の計算方法は、大きく分けて「定額法」と「定率法」の2種類です。
定額法とは?
「定額法」は、毎年一定の金額を減価償却費として計上する計算方法です。
定額法の計算式
減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
資産の購入費用を毎年均等に償却していくため、計算が分かりやすい点がメリットです。
定率法とは?
「定率法」は、未償却残高に対して、毎年一定の割合を減価償却費として計上する計算方法です。
定率法の計算式
減価償却費 = 未償却残高 × 定率法の償却率
定率法の式通りに計算していくと、初年度から数年は償却費が高額になりますが、最後の方には非常に少額になるため、減価償却を終えるまでにかなりの年数が掛かってしまいます。
その措置として適用されているのが「改定償却率」と「償却保証額」です。
通常の計算式で出した償却費が償却保証額を下回りそうな場合、それ以降の年度はそれまで使用していた償却率ではなく、改定償却率を使用する決まりとなっています。
償却保証額は、「資産の取得価額 × 保証率」で出すことができます。
減価償却の計算方法
では、具体的な例を挙げて減価償却の計算方法を見ていきましょう。こちらでは、2016(平成24)年4月1日の税制改正以降に取得した資産に対する減価償却の計算方法(定額法・200%定率法)で解説します。
2007(平成19)年3月31日以前に取得した資産の減価償却方法(旧定額法・旧定率法)や、2007(平成19)年4月1日以後に取得した資産の減価償却方法(定額法・250%定率法)については、国税庁のウェブサイトにてご確認ください。
<参考>
No.2105 定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)|国税庁
No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)|国税庁
また、資産ごとの「耐用年数表」や「償却率」「保証率」など計算に必要な情報は、国税庁の
「減価償却のあらまし」の以下の表にてご確認ください。
<参考>
主な減価償却資産の耐用年数表|国税庁
減価償却資産の償却率等表|国税庁
定額法の計算例
<例:300万円の新車(普通自動車)を購入し、営業車として使用する場合>
- 取得価額 300万円
- 耐用年数 6年
- 償却率 0.167
3,000,000 × 0.167 = 501,000
よって、この車の減価償却費は50万1,000円です。
初年度から5年間毎年50万1,000円ずつ償却を行っていくと、6年目に49万5,000円の未償却残高が残ります。
最後に残存簿価として1円を残す必要があるため、6年目の償却費は49万4,999円となります。
<例:1,000万円の木造の建物を購入し、事務所として使用する場合>
- 取得価額 1,000万円
- 耐用年数 24年
- 償却率 0.042.167
10,000,000 × 0.042 = 420,000
よって、この建物の減価償却費は42万円です。
車と同じ要領で初年度から42万円ずつ23年間償却していくと、24年目には34万円が残るので、33万9,999円を償却して残存簿価1円とします。
なお、計算後の端数は切り捨て、切り上げ、四捨五入のどれでも構いません。年度途中に購入した(初年度の使用期間が12カ月ではない)場合は月割りで計算します。
定率法の計算例
<例:300万円の新車(普通自動車)を購入し、営業車として使用する場合>
- 取得価額 300万円
- 耐用年数 6年
- 償却率 0.333
- 改定償却率 0.334
- 保証率 0,09911
【償却保証額】
3,000,000 × 0,09911 = 297,330
【減価償却費】
初年度 3,000,000 × 0.333 = 999,000
2年度 2,001,000 × 0.333 = 666,333
3年度 1,334,667 × 0.333 = 444,445
4年度からは償却保証額を下回る見込みのため、改定償却率を使った計算に切り替えます。5年度以降、掛けられる金額はその年の未償却残高ではなく4年度の簿価に固定されます。
4年度 890,222 × 0.334 = 297,335 5年度 890,222 × 0.334 = 297,335
6年度は、残存簿価が1円になるように調整します。
6年度 295,552 − 1 = 295,551
こちらも、計算後の端数は切り捨て、切り上げ、四捨五入のどれでも構いません。年度途中に購入した(初年度の使用期間が12カ月ではない)場合は月割りで計算します。
中古車など中古資産の計算方法は?
中古車や中古マンションなど中古資産を事業用として取得した場合には、法定耐用年数ではなく、資産取得以後の使用可能期間として残存耐用年数を見積もる方法が原則です。見積りが困難な場合は、「簡便法」により算出します。
1)法定耐用年数の全てを経過している中古資産
事業用に購入した新車(普通自動車)の法定耐用年数は6年と決まっていますが、新車時の登録から6年以上経過している中古車を購入した場合などに、この計算式を使用します。
中古資産の耐用年数 = 法定耐用年数 × 20%
例)法定耐用年数6年 × 20% = 1.2 → 「2年」
※算出した年数が2年に満たない場合には、2年とします。
2)法定耐用年数の一部を経過している中古資産
新車(普通自動車)の法定耐用年数は6年ですが、新車時の登録から半年経過した中古車を購入した場合などに、この計算式を使用します。
中古資産の耐用年数 = 法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 20%
例)法定耐用年数6年 - 経過年数0.5年 + 経過年数0.5年 × 20% = 5.6 → 「5年」
※算出した年数に1年未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。
少額減価償却資産の特例とは?
「少額減価償却資産の特例」とは、取得価額が30万円未満の資産については購入年度に一括で経費計上することができる制度です。
取得価額に消費税を含めるか否かは、企業が適用している経理処理方式が税込経理方式か税抜経理方式かによって決まります。
なお、この特例は青色申告をしている法人が対象で、常時使用する従業員の数が1,000人以下(令和2年4月1日以後に取得などする場合は500人以下とされ、連結法人を除く)の法人に限られます。
特例の要件を満たしているかどうかについては、国税庁のウェブサイトで確認ができます。
<参考>
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
また、似ている制度に「一括償却資産」があります。こちらは、取得価額が10万円以上20万円未満の資産に対して、耐用年数にかかわらず3年で経費計上することができるという制度です。
一括償却資産は、白色申告者でも利用できるのが特徴です。
ちなみに、取得価額が10万円未満、または使用可能期間1年未満の資産については減価償却の必要がないため、消耗品費として一括計上が可能です。
減価償却費の仕訳は「直接法」か「間接法」で行う
減価償却費の仕訳は、「直接法」か「間接法」で行います。支払う税額に違いはありませんが、無形固定資産の場合は直接法で仕訳します。
直接法
直接法は、減価償却費を固定資産から直接差し引いていく方法です。借方科目に、減価償却費を費用計上し、貸方科目に固定資産を記入し、金額には減価償却費と同じ金額を記載します。
<例:10万円のエアコン(器具及び備品)を定額法で減価償却した場合(耐用年数6年)>
直接法の計上の仕方
借方 | |
---|---|
減価償却費 | 16,667 |
貸方 | |
固定資産(器具及び備品) | 16,667 |
間接法
間接法は、減価償却費を間接的に減らしていく方法です。借方科目に、減価償却費を費用計上し、貸方科目には減価償却累計額を記載します。
<例:10万円のエアコン(器具及び備品)を定額法で減価償却した場合(耐用年数6年)>
間接法の計上の仕方
借方 | |
---|---|
減価償却費 | 16,667 |
貸方 | |
減価償却累計額 | 16,667 |
減価償却をする必要性とは?
減価償却を正しく行う必要性について考えてみましょう。
収益と費用の実態を正確に把握できる
減価償却資産は、基本的に長期にわたり使用する目的で購入されます。購入年以降も利益への貢献が続くと考えると、減価償却を行うことで企業の損益の実態をより的確に把握できるようになるのです。
減価償却費に該当する資金が留保される(自己金融効果)
資産を購入した翌年以降、経理上の利益は減りますが、実際には支出があるわけではありません。減価償却費に該当する現金が企業内に留保されるため、設備や事業への投資金に充てることができるようになります。
これを、自己金融効果と呼びます。
減価償却の計算は正しく行おう
近頃は手計算以外にも、表計算ソフトやオンライン会計ツール、シミュレーションサイトなどを使用して減価償却費の計算ができるようになりました。
処理の手間が短縮できるツールは便利でおすすめですが、基本を理解していないとそれも活用することができません。
減価償却の計算は、法人・個人問わず確定申告には必須といえる知識なので、しっかり概要を押さえておきましょう。
<この記事のポイント>
- 一般的に使用される減価償却の計算方法は、大きく分けて定額法と定率法の2種類
- 定額法と定率法は選択できる場合とそうでない場合がある
- 計算に使う償却率などは国税庁のウェブサイトで確認できる
- 資産の購入費用や条件に応じて一括計上できる特例がある