減価償却を理解しよう! 意味・計算法・ポイントを分かりやすく解説

減価償却を理解しよう! 意味・計算法・ポイントを分かりやすく解説

「減価償却」は、経営者や経理担当者にとって理解しておきたい会計知識の一つです。

今回は、法人税法の規定に沿って、減価償却の意味や、「定額法」と「定率法」の2種類の計算方法、つまずきやすいポイントなどについて分かりやすく解説します。

中小事業者で減価償却について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

石動総合会計法務事務所代表 石動龍様

【この記事の監修者】
石動龍

石動総合会計法務事務所代表

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。ドラゴンラーメン(八戸市)店長、ワイン専門店 vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。2021年中の不動産業開業が目標。
公式サイト
ツイッター

減価償却とは?

減価償却とは、固定資産の購入費用を数年~数十年にわたり分割して計上していく会計処理のことです。

対象となる資産は、パソコンや自動車、建物など、経年劣化や損耗により時間と共に価値が低下するものです。対象の資産には、法的な使用可能期間として「法定耐用年数」が定められています。実務上で減価償却を行う際は、その期間に応じて数年~数十年にわたり減価償却費を計上していくことで、税務上の損金とすることが認められています。

例えば、営業に使う新車を300万円で購入した場合。購入年度に全額を経費として計上するのではなく、6年にわたり計上していくことになります。

減価償却を行う意味と必要性

個人事業主の場合、減価償却は必ず行う必要がありますが、法人の場合は税務会計上は任意となります。

対象となる資産は基本的に長期にわたって使用する目的で購入されるというのもポイントです。

購入年度以降も事業への貢献が続くと考えると、使用可能期間に応じて分散して経費計上するのは実態に即しており、資産がもたらす損益の実態をより的確に把握することにつながるのです。

減価償却を行うメリット・デメリット

減価償却は税制上ではどんなメリットがあるのでしょうか。デメリットも合わせて解説します。

減価償却のメリット

減価償却費は、税法上では限度額が定められており、毎年の経費として計上することができます。毎年減価償却費が発生するということは、つまり、毎年の課税所得が減るので、法人税をおさえることにつながります。

他にも、たとえば車やビルなど高額なものを購入したとき、その費用を1年目で全て計上してしまうと、その年の会社の利益は大幅に減少し、場合によっては赤字決算を行わなくてはなりません。しかし、分散させて経費として計上できれば、大きな増減もなく損益のバランスを取って経営することができます。

減価償却のデメリット

一方でデメリットとしては、​会計処理の面から言うと、計算方法や仕訳に手間がかかります。減価償却資産にはそれぞれ耐用年数が定められており、減価償却費を計上する際は、耐用年数を資産ごとに確認して仕訳する必要があります。計算方法にも、いくつか種類があり資産や用途ごとに対応しなければなりません。

また、減価償却に関して、税法は改正されることがあるため、都度対応しなければなりません。

減価償却の用語を知ろう!

減価償却を行う上で、覚えておきたい関連用語をまとめました。

用語 意味
減価償却資産 業務のために用いられる、時の経過等によってその価値が減る資産のこと。
減価償却費 実際に経費として資産の使用可能期間にわたり分割して計上する金額のこと。
取得価額 資産を取得するために掛かった金額のこと。
耐用年数 資産ごとに定められた法定上の使用可能期間のこと。
事業供用日(事業の用に供した日) 資産を事業に使用し始めた日のこと。
減価償却累計額 これまで減価償却した費用の累計金額のこと。
未償却残高 資産の取得価額から減価償却累計額を差し引いた残高のこと。
残存価額 耐用年数経過後の資産価値を取得価額の10%とするという考え方のこと。2007年の税制改正で廃止された。
残存簿価 耐用年数経過後の資産価値を1円とみなす考え方のこと。2007年4月1日以降に取得した資産に適用される。

減価償却できる資産とできない資産の違い

固定資産には減価償却できるものとできないものがあり、以下のようなポイントから判断することができます。

減価償却できる資産

  • 【減価償却できる資産】
  • 業務に使用している資産
  • 経年により劣化する(価値が下がる)資産

(例:建物、構築物、車、パソコン、ソフトウェア、商標権、牛、果樹など…)

まず、業務に使用していることが前提で、経年の劣化や損耗によって価値が下がるものが減価償却の対象です。なお、取得価額が10万円未満の資産は、取得価額に相当する金額を経費として計上した場合には、全額が損金に算入されます。

対象資産の中には車やパソコンのような有形固定資産と、ソフトウェアや商標権のような無形固定資産があります。

他にも、農業や畜産業に使われる植物や動物も減価償却できる場合があります。

減価償却できない資産

  • 【減価償却できない資産】
  • 業務に使用していない資産
  • 経年による劣化がない(年月が経っても価値が下がらない)資産

(例:土地、借地権、骨董品、美術品、建築中や稼働休止中の資産など…)

土地や骨董品などは経年によって価格が下がるものではないため、対象にはなりません。
また、建築中の建物で事業用としない部分や、稼働休止中の機械のうち、いつでも稼働することができないものは、現在業務に使用している資産とは言えないため対象外となります。

減価償却における耐用年数

耐用年数とは、資産を使用することができる期間のことです。固定資産の中には、パソコンや車のように経年劣化や使用による損耗で年々価値が減っていくものがあります。それらの資産は使用開始から法定耐用年数に従って、減価償却を行います。

耐用年数は、資産の種類によっても年数が変わり、材質・構造・使用用途などにより細かく定められています。

例えば、全く同じ材質や構造の建物であっても、事務所用に使用する場合と飲食店用に使用する場合では使われる環境が異なるため、法定耐用年数も異なるので注意しましょう。

下記に主な減価償却資産の法定耐用年数を紹介します。

建物、建物付属設備の耐用年数

建物の耐用年数は、構造や用途によって細かく定められています。一部を紹介します。

構造・用途 細目 耐用年数
木造・合成樹脂造のもの 事務所用のもの 24
店舗用・住宅用のもの 22
飲食店用のもの 20
旅館用・ホテル用・病院用・車庫用のもの 17
公衆浴場用のもの 12
工場用・倉庫用のもの(一般用) 15
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの 事務所用のもの 50
住宅用のもの 47
飲食店用のもの 延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの 34
その他のもの 41
旅館用・ホテル用のもの 延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が30%を超えるもの 31
その他のもの 39
店舗用・病院用のもの 39
車庫用のもの 38
公衆浴場用のもの 31
工場用・倉庫用のもの(一般用) 38

その他の耐用年数は、「耐用年数表|国税庁」をご参照ください。

車両・運搬具、工具の耐用年数

車両の耐用年数は、用途や総排気量などによって定められており、一般用と運送事業者等用で分かれています。以下に、運送事業者用を紹介します。

構造・用途 細目 耐用年数
運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用のもの 自動車(2輪・3輪自動車を含み、乗合自動車を除く。) 小型車(貨物自動車にあっては積載量が2トン以下、その他のものにあっては総排気量が2リットル以下のもの) 3
大型乗用車(総排気量が3リットル以上のもの) 5
その他のもの 4
乗合自動車 5
自転車、リヤカー 2
被けん引車その他のもの 4

その他の耐用年数は、「耐用年数表|国税庁」をご参照ください。

機械・装置の耐用年数

機械・装置とは、農業用設備や林業用設備、食料品や加工品の製造設備などのことです。

設備の種類 細目 耐用年数
農業用設備 7
林業用設備 5
食料品製造業用設備 10
印刷業・印刷関連業用設備 デジタル印刷システム設備 4
製本業用設備 7
新聞業用設備 モノタイプ・写真・通信設備 3
その他の設備 10
その他の設備 10
宿泊業用設備 10
飲食店業用設備 8
洗濯業・理容業・美容業・浴場業用設備 13
その他の生活関連サービス業用設備 6
自動車整備業用設備 15

その他の耐用年数は、こちらをご参照ください。

他にも、業務で使用する家具や電気機器、パソコン、看板、時計などの「器具・備品類」や、建物以外の工作物や土木設備などの「構築物」に関する法定耐用年数も定められています。

耐用年数については以下の記事でも解説しているので、ご参照ください。
減価償却資産の耐用年数とは? 一覧と適用のポイント解説|バックオフィス進化論

減価償却費の会計処理の方法

減価償却費の計算方法と仕訳方法について、それぞれ簡単に解説します。

減価償却費の計算方法 〜定額法と定率法〜

一般的に使用される減価償却費の計算方法は、大きく分けて「定額法」「定率法」の2種類があります。

定額法の計算式

減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率

資産の取得価額から減価償却費を割り出し、毎年一定の金額を計上していくのが定額法です。計算がシンプルで分かりやすいのがメリットです。

定額法の計算式

減価償却費 = 未償却残高 × 定率法の償却率

資産の未償却残高(初年度は取得価額)に対して、毎年一定の割合を計上していくのが定率法です。​​

定率法は初年度の減価償却費が最も高く、後半になるにつれ低くなるのが特徴で、計算がやや複雑です。

通常の計算式のままでは耐用年数以内に償却が終わらないため、「償却保証額」(取得価額 × 保証率)が定められており、償却保証額を下回る見込みとなった年度以降は「改定償却率」を使用して計算する仕組みになっています。

減価償却の計算方法をもっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参照ください。
減価償却の計算方法を解説! 定額法・定率法・資産ごとの事例も紹介|バックオフィス進化論

減価償却の仕訳方法 〜直接法と間接法〜

減価償却の仕訳方法は、「直接法」「間接法」の2種類です。

どちらも支払う税金額に違いはありませんが、無形固定資産の仕訳に使うことができるのは直接法のみと決められています。

以下は、10万円のエアコン(器具及び備品)を定額法で償却した場合の書き方例です。ちなみに、耐用年数は6年です。

直接法の書き方例

借方 貸方
減価償却費 16,667 固定資産
(器具及び備品)
16,667

直接法は、その名の通り固定資産から直接減価償却費を差し引いていく仕訳方法です。

間接法の書き方例

借方 貸方
減価償却費 16,667 減価償却累計額 16,667

一方、間接法では固定資産から減価償却費を差し引くことはせず、「減価償却累計額」という勘定科目を使って記帳します。

減価償却をする際の注意点

初めて減価償却を行う際は、以下の点にも注意しましょう。

「少額減価償却資産の特例」という税制措置がある

減価償却には、「少額減価償却資産の特例」という制度があります。

対象となるのは、青色申告法人である中小企業者又は農業協同組合等で、常時使用する従業員の数が1,000人以下(令和2年4月1日以後に取得などした場合は500人以下とされ、連結法人は除く)の法人です。

この制度は、取得価額が10万円以上30万円未満の固定資産に対し、定められた要件に該当する法人であれば、購入年度に全額費用として計上することができるというものです。

また、似ている制度に「一括償却資産」がありますが、こちらは白色申告者でも利用できるのが特徴です。

特例についての詳細は、国税庁のページを参考にしてください。

<参考>
No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁 【確定申告書等作成コーナー】-一括償却資産とは

資産の取得時期によっては会計処理の方法が異なる場合がある

減価償却は規程にのっとって行いますが、幾度の税制改正に併せて方法が変更されてきた経緯があります。

こちらの記事は、2021年7月時点の情報をまとめたもので、2016年4月1日の税制改正以降に取得した資産を対象にした方法を紹介しています。

資産の取得年月によっては、定率法の償却率や法定償却方法などが異なることがあるので注意しましょう。

また、閲覧時点で最新情報ではない可能性を考え、公的な情報と併せて確認することをおすすめします。

2022年4月の減価償却に関する法改定

2022年(令和4年)の税制大綱では、減価償却に関する改正が行われました。現行制度では、中小企業者等の「少額減価償却資産」の特例において、1回の取得価額が30万円未満のものについて、1事業年度あたり300万円を限度として取得価額の全額を損金算入できることとなっています。

令和4年度の税制改正大綱では、この制度の適用期限が2年延長され、対象資産から「貸付けの用に供した資産」が除外されます

この改正は、令和4年4月1日以後に取得する資産から適用され、取得価額10万円未満の少額の減価償却資産、取得価額20万円未満の一括償却資産にも同様に適用されます。

なお、自社で使う貸付用ではない資産の場合は、今まで通り特例の対象となります。

よくある質問

よくある質問

減価償却資産や処理方法についてのよくある疑問をまとめました。

減価償却はいつから始める?

減価償却を開始するのは「事業の用に供した日」と定められています。つまり、資産を購入した日ではなく、購入した資産を実際に業務に使用し始めた日ということです。

例えば機械設備であれば、購入後に設置工事や初期設定、調整などを終え、実際に稼働開始した日から減価償却を始めましょう。

もし、年度の途中で使用し始めた場合は月割で計算します。

固定資産が中古の場合はどうする?

中古で購入した車やマンションなどの固定資産でも、前述の「減価償却できる資産」の要件に該当するのであれば減価償却できます。

その場合の計算は、法定耐用年数ではなく、残存耐用年数を見積もる方法が原則です。見積りが困難な場合は「簡便法」により算出します。

既に法定耐用年数を超えている中古資産の耐用年数は、「法定耐用年数 × 0.2」で割り出します。

まだ法定耐用年数が残っているものは、「法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 0.2」で割り出すことができます。

事業用の建物を所有した場合、建物本体以外にどのようなものが対象になる?

賃貸物件や店舗など事業用の建物を所有した場合、建物附属設備の費用なども減価償却の対象となります。

建物附属設備とは、電気設備や給排水設備、空調設備など建物に付随して使用される設備のことです。他に、機械式駐車設備や広告塔などの構築物も対象となることがあります。

事務所などを借りた場合、どのようなものが対象になる?

賃貸オフィスなどを利用する場合、賃借に掛かる家賃や保証金は対象にはなりません。

ただし、新たに電気設備をつけたりオフィスの内装工事などを行う場合、それらに掛かる費用は耐用年数に応じて減価償却することができます。

定額法と定率法は自由に選べる?

法人は定額法と定率法を自由に選択することができますが、資産によっては法定償却方法が定められているものもあります。

例として、鉱業用を除く建物や建物附属設備、構築物などの不動産については原則として定額法しか使うことができません。

消費税は税込みと税抜きどちらで計算するのが正しい?

消費税については、税込経理方式を適用している企業であれば税込み、税抜経理方式を適用している企業であれば税抜きで計算しましょう。

ちなみに、少額減価償却資産の特例の対象であるか(取得価額が30万円未満であるか)を判断する場合なども同様に、適用している経理方式にのっとって行います。

減価償却を正しく理解しよう

減価償却は経営に必要な知識である半面、難しいと苦手意識を感じてしまう方も少なくありません。

計算が面倒な場合には、一般的な表計算ソフトの他、自動計算してくれるアプリやシミュレーションができるWebサイトなどを利用するのもおすすめです。

便利なツールを活用して正しい処理を行うためにも、まずは基本的な用語や仕組みをしっかりと理解しておきましょう。

<この記事のポイント>

  • 減価償却とは、固定資産の取得価額を分割で計上する会計処理のこと
  • 業務に使用している、経年で価値が低下する、原則として10万円以上である資産が対象
  • 資産ごとに定められた耐用年数がある
  • 計算には定額法か定率法を使うのが一般的である

注目の記事