ペーパーレス化するメリットや効果は? 導入方法、成功事例を紹介
森林保護や温室効果ガスの排出抑制など環境問題がより重視される昨今、「ペーパーレス」について耳にする機会も増えてきました。
そこで、今回はオフィスのペーパーレスが必要な理由や、ペーパーレス化のメリット・デメリット、そして導入する際のポイント、企業の成功事例も解説していきます。
企業におけるペーパーレス化を検討している方は、ぜひチェックしてみてください。
ペーパーレス化とは?
ペーパーレスの広義の意味は、紙の代わりに電子化データを用いることです。ペーパーレス化の一環として既に多くの企業が、社内ツールにPDF文書を載せたり、給与明細をPDFデータにして従業員にメールで送ったりしています。
また、日報や勤怠管理などのクラウド管理や電子請求書システムの導入をすることで、さらなる業務の迅速化・効率化につなげることができます。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
ペーパーレスとは? 電子化OKな文書や取り組み方を解説
なぜ今、企業においてペーパーレスが必要か?
ペーパーレス化は日常業務の効率化といった視点からだけでなく、社会情勢を考えた視点からも必要とされています。
テレワークにも必要なペーパーレス
現在多くの企業がテレワークを行っていますが、紙文化が残っていると、オフィスにわざわざ出社して、上司の承認のために印鑑が必要だったり、必要なデータや資料が紙ベースでオフィスに保管されていたり、テレワークはスムーズに進みません。
社内で扱っている資料や保存義務のある文書も電子化することで、保管するためのスペースが不要になるほか、ハンコをもらうためだけの出社などの手間やコストを削減することができます。
国際的に高まる森林保護の必要性
ペーパーレス化は、紙の使用量節約につながり、地球環境保護の側面からも必要と言えます。
今世紀に入って設立されたUNFF(国連森林フォーラム)では毎年のように会合が重ねられ、森林の持続可能な経営と保全の強化に関する事項が取り決められています。
「働き方改革」の一環として求められる
2019年4月、厚生労働省から「働き方改革」が打ち出されました。この改革は、人口減少化社会において労働人口を確保するのが狙いです。そのために女性や高齢者・障害者などさまざまなバックグラウンドを持つ人々にとって、働きやすい環境を整える必要があります。
子育て世代の長時間労働を抑制し、少子化を防ぐ効果も期待されます。こうした「働き方改革」の一環として、場所と時間の制約を受けない電子化データの活用やペーパーレス化の重要性が増しています。
企業がペーパーレス化することのメリット
ペーパーレス化は、環境問題改善や働き方改革など世論から求められているだけでなく、コスト削減やセキュリティー強化など、企業にとって嬉しい効果もあります。
メリット①「コストを削減できる」
ペーパーレス化で削減できるコストは印刷に掛かる紙代だけではありません。社内のプリンター台数を少なくすればリース料金を減らせますし、過年度の書類のための保管場所が不要になればオフィス空間を有効活用できます。
経理書類には7年間の保管義務がありますが、1998年に施行された「電子帳簿保存法」と2005年に施行された「e-文書法」により電子媒体での保存も許可されるようになりました。
2005年「e-文書法」施行時は、3万円未満の領収書・契約書のみ電子帳簿が認められていましたが、2015年の改正により金額要件は撤廃されました。電子帳簿に対応した電子請求書システムを使えば、郵送代もコストカットできます。
電子帳簿保存法について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
【2022年1月施行】電子帳簿保存法の改正ポイントをわかりやすく解説!
【2022年度】改正電子帳簿保存法で申請方法はどうなる?要件や対応策を解説
メリット②「業務効率の向上につながる」
電子化したデータの優れている点の一つに、検索のしやすさがあります。過年度の紙伝票を探すために倉庫の段ボールを開け過去のファイルをめくる必要はもうありません。電子化された帳票なら、日付・科目・摘要などから検索し確認したいデータをすぐに見つけられます。
ファイリングやシュレッダーの手間もなくなります。修正データも印刷し直す必要がなく即時反映できます。さらに電子請求書システムを利用すれば、受け取ったデータを会計システムへ自動ダウンロード・インポートできるので、伝票作成・入力作業が不要になります。経理担当者の負担が減るだけでなく、手入力によるミスも少なくなります。
メリット③「セキュリティーを強化できる」
電子化したデータにはアクセス制限をかけられるので、セキュリティー強化につながります。紙資料は災害時に焼失・水濡れなどのリスクがありますが、クラウドに保存したデータは無傷です。企業コンプライアンスの重要度がさらに増している昨今、今まで以上のセキュリティー対策が求められています。
メリット④「企業イメージアップにも効果あり」
2015年9月の国連サミットで持続可能な開発目標「SDGs (Sustainable Development Goals)」が採択されました。環境マネジメントシステムに関する国際規格である「ISO14001」を取得するなど、環境問題への取り組み姿勢をアピールする企業も増えています。
そのため、ペーパーレス化は企業のイメージアップにもつながります。
企業がペーパーレス化することのデメリット
一方、失敗を避けるためにデメリットも存在することを認識して、あらかじめ対策を講じる必要があります。しかし、ペーパーレス化は長期的に見ればメリットの方が多いでしょう。
デメリット①「文書によっては紙ベースの方が見やすい」
パソコンやタブレットの限られた画面では、長いテキストデータや、図表・地図などは全体像が把握しにくいという欠点があります。複数の資料を同時に見比べるのも困難です。こうしたペーパーレス化に適さない資料は、引き続き紙で取り扱うことを検討するなど、対策を考える必要があります。
デメリット②「ハード・ソフト両面の導入コストが掛かる」
従業員一人ひとりにタブレットやパソコンなどを別途配布する場合、端末代に加えクラウドデータを保存するサーバー代も掛かります。ハード面の準備だけでなく、従業員が新しいシステムの運用方法を習得することも不可欠です。また、IT関連にあまり慣れていない従業員にも、デバイスの扱いに慣れてもらう必要があります。
ペーパーレス化に伴うセキュリティー強化の恩恵を受けるためにも「パスワードを付箋に書いてパソコン画面に貼らない」など、情報管理・ITリテラシーに関する教育も行わなければなりません。通常業務と並行して、従業員への講習を確実に行う必要があります。
デメリット③「システム障害や故障のリスク」
システム障害やデバイス故障があると、資料を利用できなくなる・資料が消失するといった支障を来す恐れがあります。クラウドに保存したデータは、自動バックアップシステムで頻繁にバックアップしたり、ミラーサーバーの設置を行ったり対策を講じましょう。
社内でペーパーレス化を推進する方法とポイント
社内でペーパーレス化を導入する際、どのように進めていけばよいかポイントを紹介します。
① ペーパーレス化の必要性を明確にする
まず、ペーパーレス化におけるメリットや、業務での変化を明確にしましょう。例えば、今まで請求書を紙でやりとりしていたものを、取引先へメールで送付してもらうなどです。この時、PDFにして、必要であれば電子印を入れてもらうなどの対応を取引先へ具体的に伝えます。
導入の際は、ペーパーレス化の必要性を経営層にも認識を共有し、経営層が率先してペーパーレスに取り組むことも大切です。その上で、従業員にペーパーレス化の意義や目的を伝えます。
こうして、ペーパーレス化の必要性が社内で浸透すると、徐々に紙を使うことが減り、コスト削減につながっていくでしょう。
② 段階的にペーパーレス化を進める
「さあ、今日からコピーは禁止。紙でのやりとりは禁止」と言われても、従業員はすぐには対応できず、混乱を招いてしまいます。これまで紙でのやりとりに慣れていた従業員はなおさらです。
ペーパーレス化を進める場合は、部署ごとや業務単位などに分けて、まずはこの業務から始めるなど、段階を踏んで取り組むようにしましょう。
少しずつ始めることで、従業員のペーパーレスへの理解も深まっていくでしょう。
③有効なITシステム・ツールを活用する
ペーパーレス化を推進するためには、ITシステム・ツールを活用するのも有効です。例えば、請求書や注文書などの帳票の作成や送付、管理などができる電子帳票システムや、契約書をオンライン上で作成し相手へ送れる電子契約サービスなどが挙げられます。
また、社内文書をネット上に保存・共有するためのオンラインストレージや、FAXを使用することが多ければ、ペーパーレスFAXなどのツールもあります。必要であれば印刷された文章や手書き文字を認識し、データへと変換できるOCRツールも便利でしょう。
そして、現在テレワークでWeb会議を行う機会が増えていますが、ペーパーレス会議システムも便利です。紙の資料をデジタル化し画面共有できるほか、ツールによっては、資料の並列表示や拡大表示ができたり、直接書き込めたり、議事録を代わりに作成してくれたりもします。
自社に合ったITシステム・ツールの導入を検討しましょう。
ペーパーレスを導入した成功事例を紹介
最後に、実際にペーパーレスを導入した企業の具体的な成功事例を紹介します。
成功事例① 世界的シェアを誇る計算機メーカー
腕時計や電子辞書などの製品で、世界的シェアを誇る計算機を扱う会社では、古い基幹システムを刷新するタイミングでペーパーレス化を取り入れました。
具体的には、関係会社間でシステムが異なっていた請求書フォーマットを統一し電子化。毎月何千枚もの請求書をプリンターで印刷していたのが不要になりました。
結果、請求書を郵送しないで済むため、総務業務の大幅な効率化とコスト削減につながったそうです。また、取引先企業にとっても請求書発行後、即日で数字を確認できるので利便性が向上しました。
成功事例② 全国に店舗展開している楽器会社の場合
全国に楽器店を構える会社でも、ペーパーレス化によって事務作業の時間短縮を実現し、月次決算の精度まで向上させました。
本社の経理部で全国店舗の請求書を紙で受領していたため、ペーパーレス化前は郵便物の仕分けや開封作業だけで3時間、入力作業に20時間も掛かっていました。しかし、前月分を計上・入力する月初、毎月残業していた経理担当者も、電子請求書システムを導入した現在はほとんど定時で帰宅しています。
また、請求書を計上し、支払い処理をした後、経費支払いデータを各店舗に送り、誤りがあれば修正するという作業もありました。しかし請求書を電子化した現在は、紛失リスクも郵送による時間的ロスもないので、店舗で金額などを確認後、本社で経理処理できるため月次処理の精度が上がりました。
ペーパーレス化は現代において必要不可欠な取り組みだ
オフィスのペーパーレス化は、業務効率が大幅に上がることだけでなく、コスト削減、オフィスの有効活用など、さまざまなメリットがあることが分かりました。実際、導入して成功事例の企業を見ると、想像がつきやすいのではないでしょうか。
紙に出力した方が見やすい文書もありますが、請求書や見積書、給与明細などデータにできるものは、ぜひペーパーレスにし、できる範囲から取り組んでいきましょう。
そうすれば、自ずと森林保護や温室効果ガスの排出抑制など環境への配慮にもつながります。
<この記事のポイント>
- ペーパーレス化は、国際的に高まる森林保護の必要性や、働き方改革などの側面から必要である
- 企業におけるペーパーレス化は、業務効率UPやコスト削減、セキュリティー強化などあらゆるメリットがある
- ペーパーレス化を導入する際は、全社的な理解と段階的な対応が必要。ITシステム・ツールの活用もおすすめ